335_生きることに背ける

おかあさん

どこにいるの

わたしはここにいるよ


おとうさん

どこにいるの

わたしはここにいるよ


おねえちゃん

どこにいるの

わたしはここにいるよ


おにいちゃん

どこにいるの

わたしはここにいるよ


深夜のアンモニア臭

ベットの上で聞こえる

大人の子供のような声




ミキサー食を食べさせられる人だったか

男性だったか女性だったか

何歳になったのだろうか


そもそも僕らの声は聞こえるだろうか

そもそも僕らの声を理解できるだろうか


僕の仕事ではないけれど

僕は何もできないから

やる気がなくて態度も悪くて

おまけにサボってばかりの人に

頭を下げてお願いをする


部屋に入った後は知らない

叫び声が聞こえるけど知らない

仕事でやっているだけだ


きっと年上の家族はいないんだろう

きっと年下の家族はこないんだろう



ふと、生きる事は素晴らしい

なんて言葉が頭を過ぎる

過ぎるだけで信じてなんていないけど


若いうちに死のうとしたらさぞや苦しいんだろう

受容体が過敏だとか痛覚が働いているだとか


でもあの人だってきっと苦しいんだろう

受容体なんて痛覚なんて鈍いだろう

それでもまだ生きている


大それた人間でないから

僕はあの人の泣く声が苦手だ

いなくなって欲しいと思うこともある



ふと、生きる事は素晴らしい

なんて言葉が頭を駆け巡る

自分に言い聞かせなきゃいけない気がする



そうだ、生きる事は素晴らしい

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