第4話 幻想と書いてファンタジーと読む

 俺は冷たい床に寝ころばされている。

 この世界は本当に世知辛い。

 牢屋に連れて行かれて早々に別の日本から来たと言ってる人物との面会に訪れたのだが、こいつどう見ても獣人だ。


「俺は別の日本から来たんだ!助けてくれヨォ!!」


「黙れ151番!」


 俺をこいつの牢屋の前まで案内した看守のおっさんは、思い切り牢屋を蹴り付けた。

 151番はその勢いで尻餅を付いた。

 囚人への扱いが酷いな。

 流石は異世界。


「ぐぁ!ひでぇ!」


「喜べ151番。お前と同じように別の日本から来たとか言うお仲間が今日から隣に越してきたぞ」


「別の日本から?」


 俺はその時のこいつの口角が上がるのを見逃さなかった。

 見逃さなかった、だけだった。


「兄貴ぃ!兄貴がこう言えば出所させてくれるって言うから言ってんのにこの扱いひでぇよ!兄貴のやらかした犯罪全部俺が被ったのによぉ!」


「お前何を言ってーーー」


「わかるぜ。兄貴は違法入国したスパイだもんな。女は薬漬けに男は労働力にするって毎日言ってたもんな」


 こいつ俺に罪をなすりつける気か!

 汚ねぇ!

 そして看守さんはそんな怒りの形相をこっちに向けないで!?

 誰が見ても罪をなすりつけようとしてるのわかるでしょ!?


「152番!貴様まさかこいつと通じていたのか!」


「いやまったくもって知りませんが!?」


「だが今親しそうに話していただろ!」


「一方的に話しかけられただけじゃないですか!」


「俺は娘をコイツに薬漬けにされたんだ!とりあえず貴様はこの牢に入っておけ!」


 誤解だと叫ぶも俺の意見は聞き入れられず今に至る。

 俺はこれからどうなるんだろうか?

 元の日本に帰りたい・・・


「おい、お前」


「なんだクズ犯罪者。こっちはお前の所為で扱いが酷くなったんだが?」


「そうつれないこと言うなよ。いい話があんだよ」


「いい話だ?俺を嵌めたやつの話なんか信じらんないな!」


「いや良い話だ兄弟。俺は今日脱獄するんだ。ニヒヒヒ、お前も一口噛ましてやるぜ」


「何!?その話は本当か?」


 そんな都合のいい話があるのか?

 いや、待てよ?


「あぁもちろんだ。さっきの詫びだ」


「それは助かる。それで方法を教えてくれ」


「これを飲め」


 そう言うと牢内に小さな丸薬が投げ込まれた。

 なんか想像がついた。

 これ丸薬が仮死状態にする薬で、死を偽装して脱出するってところか。

 

「驚くなよ?コイツは飲んだら死んだ後に生き返る薬なんだ。一度死んだ時に遺体を運び出されれば脱獄完了だ」


「なるほどなー」


 事実ならとんでもない薬だが俺は騙されないぜ。


「すぅー!」


「すぅ?」


「看守さーん!コイツ脱獄しようとしてまーす!」


「あ、テメェ!?」


 こんな胡散臭い薬飲んで不正な脱獄したってお尋ね者確定だ。

 だったらこいつを売って少しでも待遇を良くする。


「なんだと、貴様本当か!?」


「違いますよー、兄貴どうしたんすか急にー」


「そこに落ちてる丸薬!そいつを調べてみてください!」


「丸薬?・・・これは毒薬か!」


 毒薬?

 この人は見るからに医療の知識があるとは思えない。

 なのにわかると言うことはそれなりに流通してるか、処刑の時に使う毒薬ってことだ。


「う、うわぁぁぁあ!コイツ、俺を殺そうとしてたんだ!コイツの言ってた事全部嘘だから!」


 まぁはなっからそんなこったろうと思ったぜ。


「貴様、やはり外道だったか!」


「何を言ってるんですか、兄貴の演技に騙されないでくださいよぉ」


「演技?」


 おっと、看守も簡単に騙されるなよ。

 正直俺の演技力で乗り切るのは厳しい。

 だけど恐怖心だけなら演技力がいらない唯一の方法がある。

 

「うわぁぁぁぁぁあぁああ!」


「落ち着け152番」


「殺される!うっ、うわぁぁあぁあ!」


 それは常に大声を上げる事。

 これなら俺の演技力が無くても、騙すことはできる。

 この感情的な看守なら尚更だ。


「151番!152番の錯乱は異常だ!貴様、また嘘を重ねたな!」


 勝った。

 俺は看守が背中を向けたと同時に笑みを浮かべ、151番の形相は鬼の様に吊り上がっている。


「くそがっ!上手く罪をなすりつけれると思ったのに」


「罪状が増えたな!貴様を懲罰室に送り込んでやる!」


「バカな看守だ!この方法以外に俺が脱獄を用意してないとでも思ったか!」


 そう言うともう一つ丸薬を取り出して飲み込んだ。


「そういやここって異世界だったなー」


 だって人間があんな肥大化するわけないし。

 天井を突き破り、全長4mほどに膨れ上がって肉体も二足歩行しているオオカミの様な姿へと変貌を遂げた。

 俺チート能力とかなんもねーよ?

 これどうすんのよ。

 日本人の夢見る異世界ファンタジーは幻想だと言うことがよくわかる事案だった。

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