第2話  飛行機

今回の仕事は地上げ屋を狙うヤクザの

妨害及び駆除。


そして、それをする現場は奥多摩の

何も無いなんちゃら山の上。


用意してあるものは

・ピアノ線

・時限発砲式スナイパーライフル

・ ボウガン(クロスボウ)と矢

・タコ糸

・やけに長いスナイパーライフル用の銃弾

・ダイナマイト。


これだけだ。

FOXは此れ等でどうやって殺すつもりなのか。


取りあえず、ずっと気になっていることを聞く。


「あの、標的はどこにいるんですか?」

FOXは空を指差す。

「あれ」


そこには飛行機があった。

逆に言えば飛行機しかなかった。

まさか...


「さて、殺りますか」


そう言うとFOXは、スナイパーライフルに

タコ糸の左端をくくりつけた。


そのタコ糸の右端を矢にくくりつける。


ボウガンの弓のところにピアノ線を2.3本つけて

威力を強化させる。


タマをスナイパーライフルにいれる。


矢をボウガンにセットする。


ボウガンの動作をチェックして、

ボウガンを発射する。


発射された矢は次第に角度が緩やかになり、

1000mほど飛んだところで落下を開始してしまう。


そうすると、矢に付いていた糸も一回転し、

落下していく。


そして、糸にくくりつけたスナイパーライフルの

銃口が、飛行機の方を向く。


パァン


その刹那、スナイパーライフルから

銃弾が発射される。


タイマー式だったのはこのためか。


そのタマはどんどん飛んでいくが、次第に速度が

落ちていく。


この時点で、もう双眼鏡を使わないと

見えないほどまで飛んでいた。


ここまでわずか1分。

とんでもない早業だな。

少し恐ろしいくらいだ。


ふとFOXをみると、ボウガンにダイナマイトを

セットしていた。


FOXは引き金をひき、ダイナマイトは発射され、

導火線に火が付いたままタマの近くまで

一瞬でやってきた。


本当は一瞬でもなかったのだろうか、

俺には一瞬に見えた。


それほどの早業だった。


ここで導火線が燃え尽き、爆発を起こした。


その爆風でタマは加速し、飛行機の

燃料タンクを貫いた。


飛行機は大爆発し、近くの森へ落下した。








圧巻だった。


せいぜい標高1000mのこの山から

上空数千Kmの飛行機を撃ち落としてしまった。


やっと上から言われた言葉の意味がわかった。

今までのうち、どれか一つでも俺がやっていれば

この作戦は失敗に終わっただろう。


今回の作戦での俺の活躍はたった一つ。

足を引っ張らなかったこと。


何もしていないので

当たり前といえば当たり前なのだが、

いまの俺には大金星に思えた。


「さ、帰ろっか」

いつの間にかすべてリュックに

しまい終わっていたFOXが言った。


何もできなかった悔しさや、

仕事が終わった安堵感で泣きそうになっている

俺に気づいたのか、やけに優しい声だった。


俺は無言で頷き、立ち上がり歩き始める。

FOXもそれを見て歩き始めた。



かくして、俺の初仕事は終わったのである。



ここはフィナーレの本部。

俺の上司で司令塔を担っているポーカーさんは

FOXと俺が成功させて帰ってきたことに

驚いている様子だ。


「今回は敵がどの空港で降りるのかを

 調査してくれればよかったのよ」


「殺せるなら殺してもいいと

 仰ったじゃないですか」


「それはそうなのだけど、今回の仕事は

 コブ付きだったし」


「コブなんかじゃないですよ」


「じゃあもしかして、なにかできたのかしら?」


「...いや。俺はなんもできませんでした」


「いや、でもコブなんかじゃないです

 私のコンビに相応しい人ですよ」


...え?


「...もう一度言ってもらえるかしら?」


「コブなんかじゃなくて、

 私のコンビに相応しい人です」


なんで。

嬉しいとか嫌だの前にこれが来た。


そりゃそうでしょ。

なんもできないダメなヤツをなんで

大切なコンビなんかに。


ポーカーさんも同じことを思ったらしく、

口を開けたまま固まっている。


「...どうしてかしら」

ポーカーさんが絞り出したようにそういった。


「そうですよ。なんで俺なんかを...」


「何となく、かな」


むちゃくちゃだ。

不思議な人だとは思っていたが、ここまでとは。


「こんなのの他にも、いい人はいるわよ」

その通りだ。


「いや、この子がいい」


その後どんなに 説得しても、

駄々っ子のように聞かなかったので、

とうとう俺とコンビを組むことになってしまった。


別に嫌ではない。むしろ嬉しいくらいだ。

ただ、自分なんかでいいんだろうか。

そんな気持ちだった。


まあ、なんやかんやで今度こそ


俺の初仕事は終わったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る