キスから始まる愛ラブユー~王子な弁護士彼氏に今日も溺愛されてます!

夏川みなみ

第一章

第1話 運命の出会い

飯島英慈 32才。


彼は恵まれたルックスを持つハイスペックな男だった。


英慈のキャリア…


それもまた、傍から見れば、順調そのものだった。


一橋大学在学中に、司法試験に受かり、卒業後すぐに司法修習を経て、弁護士になった。


その後、約4年の街弁を経験した。


そして、市議会議員になり、今年2期目に入った。


しかし、この順風な人生は、復讐という強固な意志から成り立ったものだった。


あの忌まわしい事件から約15年もの歳月が流れた。


目的を達成するために、一つ一つ階段を一つ上る。


一橋大学という一流国立大学に入った。


弁護士になった。


そして、市議会議員になった。


20XX年、現在……最終段階のフェーズに入った。


議員という肩書を得て、憎いターゲットに忍び寄る。


そして、ターゲットに社会的制裁を与え、完膚なきまで叩き潰し、失墜させる。


それが、英慈の野望だった。


それこそが、英慈の生きる原動力であった。


その思いがあるからこそ、英慈は生きてこれた。


(今に見てろよ!あいつの罪を白日の元にさらしてやる!

七海を殺したあいつの罪を!!)


英慈にとって、人生に迷いがなかった。


だから、ある意味、生きるのが楽だった。


目標に向かって、努力するだけだったからだ。


今、ターゲットに一歩一歩近づいていると思うと、英慈はゾクゾクしていた。


(必ずあいつを地獄に突き落としてやる!) 


英慈は、あらためて誓うのだった。


そして、15年たった今も、最愛の妹、七海への愛は少しも変わらない。


(七海に会いたい。

七海が恋しい。

七海を愛している。

七海を抱きたい!)


英慈の体は今も変わらずに七海の肌を求めていた。


もうこの世にはいない、七海の肌を。


英慈にこんな燃えたぎる復讐心があることは、誰も気づいていない。


英慈は、議員としての実績を作るために毎日必死だった。


けっして本心を誰にも見せなかった。


本心を誰にも悟られてはならない。


(愛想よく振る舞い、周囲を味方にして、権力者に取り入り、どんどん大きな力を持ってやる!!)


英慈は、憎しみと野心が入り混じった気持ちで毎日過ごしていた。


一介の町の弁護士にすぎなかった英慈が、なんの後ろ盾もなく市議会議員に当選できたのは、所属していた法律事務所の所長、山内美恵子のおかげだった。


四年間勤務弁護士として働いた「サンライズ法律事務所」の所長、山内美恵子の尽力の賜物だった。


3月初旬、土曜日──

街のイベントがあった。


『若葉祭り〜暮らしの相談会〜』


法律や税務・保険関係の相談会を開催するという、毎年恒例のイベントである。


毎年、この町の私立小学校の体育館で行われる。


この小学校の校長が町興しに積極的なので、場所を提供してくれたり、いろいろな面で協力してくれているのだ。


英慈は、そのイベントで講演会を行なうことになっていた。


その手伝いに英慈の恩師の美恵子が来てくれることになっていた。


一足先に小学校体育館に、美恵子たちが着いていた。


英慈「美恵子先生、おはようございます」


美恵子「ああ、飯島くん。おはよう。

会場が小学校の体育館だから、準備を最初から最後まで、自分たちでやらないといけないから、たいへんだわねぇ。

後援会の人も来るんでしょ」


英慈「はい。もちろん。

会場設営には後援会や他の事務所の方たちも来ることになっているんですが、遅いな…。

そういえば、健太郎は今日は来るんですか?」


健太郎とは、美恵子の息子で弁護士をしている。


英慈と健太郎は、大学時代からの親友である。


美恵子「ええ。もちろん、相談会には来るわ。でも、午前中に打ち合わせが入ってるから、会場設営には来られないのよ」


英慈「そうですか! 来るんですか!

いやぁ、久しぶりだから、健太郎に会いたいな〜って、思って。

ああ、それにしても人手が足りないですよね。

美恵子先生の協力、本当にありがたいです」


美恵子「いいわよ。そんなの。

私達も講演会の後に、法律相談会をやらせてもらうんだから、手伝うのは当然よ。

クライアントを増やすチャンスだからね。うちも!」


美恵子「それに、今日はね、別件で校長と話があってね。

校長はうちの新しいクライアントになったのよ。うふふ。

一足先に、校長と話してきたの。

ちょうど打ち合わせが出来てよかったわ。

あ、そうそう、うちに新しいパラリーガルの子が入ってきたの。

人手が必要だと思って、助っ人に連れてきたのよ。

あー、どこ行っちゃったんだろう。

萌ちゃん」


英慈(萌ちゃん…って、女の子か)


萌「美恵子先生〜。

校長先生から別の書類を預かってきました〜」


萌がはぁはぁ…と息をきらして、バタバタと美恵子のところに走ってきた。


萌が英慈の視界に飛び込んできた。


その瞬間、英慈の中で時間が止まった…


心臓が止まった…


体中に電流が走った!


英慈(ウソだろっ?!

七海がいる!

死んだはずの七海が…

俺の目の前に!!)


英慈の目の前に、肩より少し長いセミロング、ストレートヘアの萌が立っていた。


英慈は、呆然と萌の顔をジッと見つめた。


(俺は…俺は…夢を見ているのか?!

いや、夢じゃない!

長い髪の…

長い髪の七海がそこにいる!!)


萌の顔に釘付けになっていた。


萌はソックリだった。


死んだ七海に。


この瞬間が、何分にも何時間にも感じた。


美恵子「…………

やあねぇ。飯島くん、どうかしたの?すごい顔してるよ。

いくら萌ちゃんがかわいいからって。

萌ちゃんの顔になにかついてるの?」


英慈「あ、いや…」


美恵子「あ、紹介するわね。この春大学を卒業予定の相原萌ちゃん。

弁護士を目指してて、4月からうちで契約社員として働いてもらう予定なの。2月から見習いとしてほぼ毎日アルバイトに来てもらってるの。

それで、こちらが市議会議員の飯島英慈先生。今年で2期目なの。

うちで4年間働いてたのよ」


萌「相原萌と申します。

よろしくお願いします。

美恵子先生にはよくしていただいてます」


英慈は驚きを隠すことが出きず、目を大きく見開いて萌をジーッと見ていた。


美恵子「…?………

萌ちゃんは優秀なのよ。

早稲田の法学部で、今年予備試験に受かってね。

今度の5月に司法試験なのよね」


頭が真っ白になった。


経歴なんか耳に入ってこなかった。


心臓のバクバクが止まらない。


会いたくて会いたくて仕方なかった人の顔がここにあるのだから。


美恵子「………」


萌「………」


英慈が萌の顔を食い入るように見て黙りこんでいたから、美恵子も萌も不審に思い、顔を見合わせた。


美恵子「………

さ、準備しましょうか!」


美恵子は四つ折りにたたんだ、配置図の書いてあるプリントをポケットから出した。


美恵子「これ、飯島くんが送ってくれた配置図。

あー。じゃあ、とりあえず、先に、パイプ椅子を100席分並べちゃいましょうか。

萌ちゃん、これ見て椅子出しをやってちょうだい。

あと、講演会のポスターを貼って、立て看板と目次をそれぞれの場所に設置して…と。

それと、無料法律相談コーナーの、のぼり旗も置かなきゃ。

あと、体育館の後部スペースはっ…と」


美恵子はテキパキと指示を出した。


萌「はい。じゃあ、私は椅子を出してきます亅


美恵子「あ、萌ちゃんにも配置図のプリントあげるから」


美恵子は肩にかけていたバッグの中をゴソゴソと探った。


美恵子「萌ちゃん、ちょっと待って。プリント出すから。

プリントがないわぁ。

あら、ちょっと老眼鏡もないわー。

老眼鏡がないと見えないじゃないのぉ!

どこいっちゃったのかしら」


萌「美恵子先生、さっき舞台に上がったときじゃないですか。

『リハーサルよ』って言って、試しに舞台に上がったとき。

いろいろ荷物を舞台に持っていったじゃないですか。

私、とってきます!」


萌は、サッと動いて、タッタッタッ…と走って、ステージに探しにいった。


英慈はしばらくボーッとして、突っ立っていた。


美恵子「…?……

さ、飯島くんも、自分の講演会なんだから、ボーっとしてないでがんばってよ!

こっちはこっちでちゃんと準備するからさ。

あー、でも、老眼鏡ないと困るわねぇ」


英慈「そうですね。すみません。

僕もリハーサルしてこようかな。

舞台に上がって。

じゃあ、失礼します!」


英慈は、体育館の舞台裏に足早に歩いた。


リハーサルのため…なんかではなく、すぐさま萌のあとを追いかけたかったのだ。


英慈は、萌の顔を見て確かめたかった。


英慈(俺は、いったい何を確かめるっていうんだ?!)


わけのわからない衝動が体を駆り立てていた。


舞台の机の脇に美恵子の大きなバッグが置いてあった。


萌はバッグの中に顔を突っ込み、ゴソゴソ探していた。


萌「あれぇ、美恵子先生のバッグの中に、絶対にあると思ったんだけどなー。

ないなぁー」


英慈は、舞台そでの階段下から声をかけた。


英慈「老眼鏡見つかった?」


萌「あー、それがちょっとまだ…」


英慈「俺も探すの手伝うよ」


英慈は舞台につづく階段を登ろうと、階段を1段2段登った。


萌「あー! ありましたー!

老眼鏡!

よかったぁー!」


萌が老眼鏡をポケットの中に入れ、急いで舞台の階段を降りようとしたときだった。


グラッときた。


地震だった。


かなり大きく揺れた!


揺れたとたん、萌は誰かに萌の背中を押されたような感覚があった。


萌「キャッ!!」


その時、フワッ…と百合の花の匂いがした。


その瞬間、萌は足元の障害物につまづいて、階段を踏み外した。


ドッシーン!!


ガラガラ!!


俺は上から降ってくる萌を抱きとめて、床に萌と共に倒れ込んだ。


萌は英慈の体の上にいた。


二人は唇を重ねていた。

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