俺はまだ頑張るよ。

@pi-mann

第1話

 中学2年生。日は照り、虫が鳴く季節。俺、加藤大知は一人の女の子に恋をした。彼女の名前は倉本瑞夏、同級生で同じ陸上部だ。俺は彼女の走りを見た。美しかった、一目惚れだった。それから彼女にアドバイスを求めたり、それとなく話しかけたり。彼女の声はくすぐったかった。それから俺は必死に走った。中学3年生で、大会で表彰された日に告白するつもりだった。そのつもりだったのに……。

「えー、皆さん報告があります。大変急ではありますが、この部で共に切磋琢磨した仲間である倉本瑞夏さんが、この度転校する事となりました。冬休み中には転校してしまうそうなので、冬休みに入る前に皆さんお別れの言葉を送ってあげてください。では今日の部活はこれで終了とします。くれぐれも怪我の無いように帰ってください」

聞いているうちに息が浅くなるのを感じた。関係あるかどうかは分からないが最近家庭の事情でそこそこ長く休んでいた彼女だが、まさか転校してしまうとは。俺は涙が零れそうになりとっさに上を見上げた。そしてそのまま荷物を掴み、部室を後にする。乱暴に扉を放ると俺は駆け出した、涙を見せるのが恥ずかしかった。家についた俺は泣いた、こんなに泣いたのはいつぶりだろうか、その日はその後何をしたか覚えていない。だが、まだ1年間は一緒にいられると思っていた。何と表せばいいのか分からない感情が俺を襲ってきたのは覚えている。

「中田先生、さようなら〜。良いお年を」

「中先、バイバイ。良いお年を」

「うーい、お前達も良いお年を。年明けも元気に登校してくるんだぞ!!」

 結局、彼女は最終日まで登校してこなかった。部員として部活動として手紙を送りはしたが、俺は本心を伝えられていなかった。最後に会って話がしたい。もはや振られても構わない、会えるのなら最後、悔いの残らないように告白したい。俺は彼女の家に駆けていった。インターホンを鳴らすと彼女の父親が顔を見せた。

「すみません、えっーと、倉本さん、倉本瑞夏さんは居ますか?」

「あー、学校のお友達かな?ごめんね、今瑞夏は家に居ないんだ。何か伝えたいことがあれば瑞夏には伝えておくよ?」

ぐ、これでは手紙と変わらないではないか。会えない時はしょうがないと考えてはいたがいざ会えないとなると諦めがつかない。

「そうですか……。えーと、瑞夏さんと話がしたくて…、今電話番号を渡すので後で電話してきてくれませんか?」

「えっ?あー、そうだな名前を教えてくれるかい?」

「加藤大知です。」

「加藤君ね。ありがとう、瑞夏が電話を掛けるかは別として伝えておくよ。では少し待ってくれるかい?今メモ帳を取りに行くから」

そうして俺は自分の電話番号を彼女のお父さんに託し、そこを後にした。

 その日の晩、知らない番号から電話が掛かってくる。俺はその電話を取ると倉本瑞夏その人の声が聞こえてくる。

「もしもし?大知君?ごめんね、最終日まで学校に行けなくて。で、何?話したいことがあるの?」

「うん、実は俺さ……、瑞夏のことが好きなんだ。こんなので良かったら、付き合ってくれないかな……」

俺はとびきり大きな声で告白したつもりが緊張で勢いのない声になってしまった。

「あー、そう…だったんだ。でも、ごめんね?私遠くに行っちゃうからさ」

やっぱりだ、予想はしていたが辛いものは辛い。

「そっ…、か。そうだよね……。」

「でもッ!!次会うときにまだ私の事を好きでいてくれたら、その時にはよろしくね?」

「えっ?あー、えっと、OKって事でいい、の?」

俺は目を見開いた。少し意味を理解するのに時間がかかった、嬉しかった。大きくガッツポーズをしたところ腕を盛大にぶつけて少しもだえる。

「うん、絶対に戻ってくるから待っててね。他に話したいことはあるかな?」

「いや、ありがとう。俺、絶対瑞夏のこと待ってるから。その時まで俺、陸上頑張るよ。他の学校でも頑張れよ‼」

「うん…。最後に話せてよかった。大地君も頑張ってね‼バイバイ」

「バイバイ」

ピッ。ツーツー……。電話が切れる。俺は告白にOKをもらえたことの喜びにひたっていた。

「は~~。まさかOKもらえるなんて思ってなかったな。よっし‼頑張れって言われちゃったし、こっから頑張るぞ」

その年の冬は大きく雪が降った。

 それから残りの中学2年、3年と、陸上を頑張ったが俺は大会で記録を残したりすることはかなわなかった。みんなが進路を決め、俺も地元の高校に決めた。受験も終わり、皆が中学生として最後の日常に浮かれていた頃、俺のもとに1つの手紙が届いた。差出人の宛名は倉本咲人、察するに倉本瑞夏の父親だろう。彼女が何か書いてよこしてくれたのかとワクワクして封筒の封を解く。そこから出てきたのは病室でにこやかに笑っている彼女と手紙。その手紙には彼女が闘病の末に亡くなった、と書かれていた。元気だった彼女がまさかそんなはずは無い、何かしらの悪ふざけか?だが手紙の筆跡は明らかに彼女の物ではなかった。振り返ってみれば確かに転校前に休みだす前、体調がすぐれないと部活には来ていなかった。だが、それでも、俺の頭がそれを認められない。なぜ?どうして?そう虚空に投げかけるがもちろん回答は帰って来ない。いつの間にか目頭が熱くなり涙が頬を伝っていた。息が途切れ途切れになり肩が上下する。俺は誰が見ているわけでもないのに涙を流しているのが恥ずかしくて服の裾で涙を拭うが意識とは反対に涙は止まらずに服にしみを作る。30分は泣いていただろうか、手紙はところどころが滲み、写真には大粒の水滴が落ちていた。落ち着きを取り戻し、顔を洗う。彼女の言葉の意味が分かった気がした、あの時の彼女がどんな気持ちで話していたのか。俺はつぶやいた。

「        」

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