第17話

「あ、これ見る?」

「ん? ちょっと、冬夕、ここで?」

 わたしは慌てる。だって冬夕がボートネックの長袖Tシャツから鎖骨のあたりをさらけ出そうとしているんだもの。

「違うちがう。ほら、君が作ってくれた新作ブラと、下はサニタリーショーツを履いているよ。パンツルックだから、そっちは見せないけどね」

 もう、なんだかドキドキするな。

 絶不調の冬夕に新作のブラとショーツを届けたのは昨日。ショーツのデザインをするという理由をつけて、冬夕のために作った。まだデザインが完全に決まったわけではないけれど、それでも冬夕にぴったりだという自信はある。育ち盛りのわたしたちは、定期的にお互いの体の変化を伝え合っている。そういう生の声が、ランジェリーづくりには必要なことだと思っているから。

「ショーツもすごくフィットしている。さすが雪綺。ペールピンクの色合いが素敵だからトップスとボトムスもそれに合わせたよ」

 ボートネックのTシャツはグレーとピンクのボーダー、。ボトムスはライトグレーのスラックス。シューズの差し色がピンク。ラインが整っていて、とてもおしゃれだ。

「うん、カジュアルだけど、品がいいね」

「雪綺は今日、スポーティーだね」

 わたしはジップアップのジャージにスキニージーンズ。これが履けるか履けないかは、わたしにとって、とっても大きな問題だ。

「うん。荷物も多くなると思ったからね」

 リュックはふたりともアウトドアブランドのかなり大きいもの。リュックは中途半端なサイズよりも、どーんと大きい方がかっこいいよね。

 駐輪場に自転車を止め、わたしたちは早速問屋街に足を踏み入れる。

 歩いているのは圧倒的に女性が多いのだけれど、時々、スカートを履いた服飾系の男の子や、レイヤーさんらしき女の子もいる。もちろん、全身DCブランド! とかロリータ! っていう子もいて、むしろわたしたちは地味な方だ。


 店の品揃えは、いつもお世話になっている手芸店とは当然比べ物にならないボリューム。目的がなかったら途方にくれてしまうだろう。ただ生地の問屋街で迷っているようでは、まだ制作するには早いと思う。冬夕に会う前のわたしがここに迷い込んだら、引き下がっていたかもしれない。

 それくらい圧倒的な質量。

 でも、それに負けじとわたしたちもひとつひとつの生地を吟味して選ぶ。数メートル単位で買うから、リュックはあっという間にずっしりと重くなる。人ひとり入ってるんじゃないのっていうくらい。

 ワイヤーや、スナップボタンもお店さえ見つければ、選び放題。わくわくするけれど、あんまりこだわりすぎて価格が高くなってしまっては、本末転倒なので、いつもの素材をより安く大量に買う感じだ。

 いつか、高級路線をはじめることがあったら、絹のレースをふんだんに使ってみたいとは思った。いや、むしろアンティークのレースかな。なんとも言えない風合いがあってわたしはとても好き。ママがアフタヌーンティーのコーディネイトに使っていて、とても素敵なんだ。


 わたしたちは、それぞれのリュックをパンパンにしている。帰り道、大変そうだな。

「ちょっと、休んでから帰ろ」

 そう言った冬夕の提案に一も二もなくうなずく。

 近くにあったコーヒーチェーンは、バリスタのいるおしゃれなカフェ。カウンターから店内をぐるっと見回す。

「あれ、なんかおばあちゃん率高くない?」

 言われてみれば、確かにおばあちゃんたちが小さなグループにまとまって談笑している。談笑というか、ちょっとうるさいくらい。

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