第6話

 あきらめきれなかったわたしは、もう一度、生地屋さんに出かけた。型紙のコーナーを見てもブラジャーのものはなかったし、書籍のところにもなかった。もうどうしたらいいかわからなくて、泣きそうだった。ううん、ちょっと泣いていた。泣くまいとしていても涙がこぼれる。

 制服の袖で涙をぬぐって前を向くと、そんなわたしをじっと見つめる視線にぶつかった。泣いているところを見られるなんて、恥ずかしいと思いながら、その瞳に惹きつけられた。アーモンドのような瞳ってこういうのを言うんだ、とぼんやりと見惚れた。

 わたしと同じ制服を着ているその子は、バッグからハンカチを取り出して差し出す。わたしは、それを受け取ると、もう、なんだか本当に悲しくなってしまって泣き出した。ハンカチは涙と鼻水でびしょびしょになってしまった。

 ようやく落ち着いて顔を上げると、そこには、もうその子はいなかった。

 ぐしょぐしょになったハンカチを広げた。そのハンカチは、たくさんの刺繍が施されているものだった。FMというイニシャルも刺繍されていた。


 ハンカチの持ち主はすぐに判明した。隣のクラスの三角冬夕。面識はなかったけれど、確かに見覚えのある顔だった。

 わたしは隣のクラスに赴き、彼女を探す。入り口付近にいた女子に冬夕のことを尋ねると、窓際で肘をついて外を見ている彼女のことを指差した。

 わたしは、おそるおそる彼女の元に向かった。

「ハンカチを、ありがとう」

 振り向くとそこにあらわれる、アーモンドの形をしたつぶらな瞳。

「どういたしまして」

 冬夕がにっこりと笑う。

「あの、」

「なあに」

「そのイニシャル、刺繍」

「うん。刺繍」

「どこでしてもらったの?」

 わたしは、そういう刺繍をしてくれるところなら、縫い物も教えてくれるんじゃないかって考えたんだ。

「これ、わたしが自分でしたの。三角冬夕、わたしの名前。あなたは?」

「わたしは、松下雪綺」

「YM。刺繍してあげようか?」

「ううん。そういうのどうやったらうまくできるようになるかな」

 冬夕は、アーモンドの瞳を少し大きくした。

「もしかして手芸やりたい? それで布を見てたの?」

「そう、だけど」

 冬夕はわたしの手を取って言う。

「一緒にしよう。わたし、縫い物得意だよ」

 それが、わたしと冬夕との出会いだった。


「うーん、絶品! 雪綺のママの作るスコーンはいつだって最高だよ」

 冬夕は、本当においしそうにスコーンをほおばる。クロテッドクリームとレモンカードが添えられている。紅茶の茶葉はアッサム。ほどよいコクがスコーンにぴったりだ。

「おかわりあるから遠慮なく」

 ポットにかけるティーコゼーは、わたしの手作りだ。冬夕に手芸を習い始めた最初の頃の作品だ。キルトを用い、はじめてミシンを使って作った。

 つたない作品ではあるけれど、とても思い入れがあって捨てられない。最初の作品にしては、よくできているし。

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