事故物件
三八
事故物件
男は不動産屋でとある物件を探していた。
その物件というのはとある投資家が死んだ部屋だ。その投資家はついこの間一発当てて瞬く間に有名になったがそのせいで強盗に殺されてしまった。有名になるまでも投資で生活しており高級とは言えないまでも綺麗なマンションに住んでいた。男はその部屋が殺人によって事故物件になったのでかなり安くなるだろうと考え不動産屋に探しに出かけた。そしてついにその物件を見つけた。しかしおかしい、家賃が全く安くないそれどころか部屋に似つかわしくない高額がついている。男は尋ねた。
「ここ安くなりませんかね」
店員は答えた。
「無理ですね、好条件なもので」
「好条件なものですか、私は知ってるんですよ。ここが事故物件だってこと」
男はしてやったと思ったが返答は思わぬものだった。
「ええ、だから好条件なんですよ」
男はわけがわからないという表情をした。
「どういうわけですか」
「ここで亡くなられた方のことはご存知ですか」
「もちろんですよ」
「なら話が早い。ここで亡くなられた投資家は投資でとてつもない額の利益を得た。そのような人間にはきっと何かパワーがあるだろうと思っている人がこの物件に住めば自分もその恩恵を受けられるだろうと信じ、いくらでもいいから入居させてくれ、と後をたたないんですよ」
男はなるほどと思ったがそのパワーとやらを信じてはいなかった。
「しかしそんなもの本当にあるんですかね」
「まあ、私らも完全に信じているわけではありませんが需要があるのは本当ですから、そんなものはないと言って突っぱねる気はありませんよ。利益が第一ですから」
「そうですか」
男は落胆し帰って行った。
数ヵ月経ったある日男はあの物件のことが気になり実際に訪れることにした。行ってみるとその部屋から出てきた者を見て驚いた。先日テレビに出ていたミュージシャンだった。最近有名になった奴だが、どうやらあの物件で暮らし始めてから有名になったらしい。
「なるほど、パワーは本当にあるらしいな」
男は呟いた。
それから男は毎朝新聞に目を通し、ついにその日がきた。どうやらとある企業の社長が自殺をしたらしくその息子が次の社長となったらしい。会社のことなどどうでも良いがその先代の社長の住んでいたところが気になった。調べてみると意外にも簡単に見つかり、またさほど良い部屋というわけでもなかった。男は早速不動産に出かけその部屋を契約した。今回は男にとっては少し苦しい額ではあったが、しっかり安くなっており競争相手もいないらしい。それにこれからの成功に比べれば安いものだ。
引っ越し作業がひと段落しすっかり夜になっていたため男は眠りについた。
「おーい」
男は誰かの声が聞こえた気がして目が覚めた。
「おーい」
やはり聞こえた。少し怖かったが目を開け辺りを見渡した。すると見知らぬ老人が立っていた。
「誰だあんたは、泥棒か」
「いやいや、そんなもんではないんだ。驚かせてすまんな。実は前ここに住んでいた者で」
「ああ、あなたがそうでしたか、しかし幽霊になって出てくるとは何か恨みでも」
「そんなものではないんだがな、まあ、心配事があってな。しかし新聞を見て安心した。もうここには出んよ」
「心配事とはなんなのですか」
「私はな親から社長の座を受け継いだんだがな私の代からどうも会社の業績が良くない、ついに倒産ギリギリになったもんで悪いとは思ったんだが自殺して息子に任せることにしたんだ。だがあいつにはその才があったようでな会社は順調にいってるらしい。いや、よかったよかった」
事故物件 三八 @mbshekkeb
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