嘘コクだと思った後輩の告白を断ったら実は幼なじみで俺の事を本気で好きでした。

@kagami_tsukasa

第1話

「ずっと前から好きでした。私と付き合って下さい…。」


目の前の美少女は頬を染めて、緊張した様子で俺の返事を待っていた。


放課後。

学校の屋上。


俺の名前は春原龍之介(17)。

特にこれといった取り柄の無い男さ。


そんな俺は4月のある日、下駄箱に手紙を貰い、呼び出しを受けた。

名前は書かれていなかったので差出人は誰なのか全く見当が付かないが綺麗な字だった。

恐らく本物の女子が書いたのかもしれないが、ドキドキするのはまだ早い。

取り敢えず実際に行ってみて、この目で確かめようか。

そう決めて手紙を鞄に入れて、教室へと向かった。






授業を聞き流しながらもらった手紙を考える。

すると時間が過ぎ去って行き、気付いたら何時の間にか放課後になった。

待ち合わせ屋上に向かった俺を待っていたのは、S級に相応しいと言ってもいい程の見た目をしている、とんでもない美少女だった。


桃色のショート髪に雪のような純白の肌。

瞳はエメラルドグリーンの色をしている。


彼女は単に美少女だと言うだけで無く、小柄なのに圧倒的な存在感が有る。

着ているのは俺と同じ学校の制服だが、彼女が着ているとまるでアイドルの衣装のように見えるな。


思わず息を飲んだ。


この子は手紙を書いた人か?


正直に言ってこんな子は誰なのか知らないが、もし彼女になってくれたら、毎日どんだけ幸せな生活を送れる事か。

本来なら躊躇もせずに彼女の告白を受け入れた事だろうが、突然過ぎて怪しい。

些とも信用は出来ない。


明らかに俺と住む世界が全く違う存在だ、彼女は。

だから思った。

こんな美少女が本気で陰キャの俺なんかに告白する訳か無い、と。


何か他意とかが有るだろうか。

俺は周りを見渡して、取り敢えず誰もいなさそうなのを確認すると、彼女に話しかけた。


「えっと、キミは?」

「あ、はい!1年生の水川あさみです!」


相当緊張しているからか、焦りながら自己紹介を述べる。


1年生の水川あさみか。

制服のリボンの色を見れば確かに1年生だ。

俺の学校では学年によって、着るリボン(女子)/ネクタイ(男子)の色が違う。


1年生は赤。

2年生は青。

3年生は緑。


といった順番になっている。そして彼女が着ているリボンの色は赤。

成程。道理で彼女を見た事がない訳か。


でも、って事はやはり、今の告白は嘘だったということなのか?

所謂【嘘コク】と呼ばれるヤツだ。

だって、1年生で入ってきたばかりで、ずっと前から好きだったはないんじゃない?

嘘だってすぐバレるよ。

まあ、別にどうでもいいと思うけど。


残念ながら俺はもう何回も嘘コクされているので、今となっても何とも思わなくなった。

入学して初めて出来た友達に無茶振りされて、断れなかったとか何か事情があるんだろうか?


まあ、事情は何であろうとも、嘘コクに対する対応策は幾つか考え付いている。

どれにするのは俺達が冷静のままでいられるか決めるだけの話だ。


「1年生の水川あさみさんか。可愛いのは本人だけじゃないみたいね」


俺が言う。


「か、わ、い…?」


すると水川さんはまるで俺が信じられない事を言ったかの様に目を丸くして慄いていた。

一瞬にして湯気が出るほど真っ赤になっちゃったように見えたが、気のせいか?

夕焼けの空も真っ赤っかだし、それの可能性も全然ある。


「あ、ごめん。キモい事言っちゃって」


今のはイケメンならいざ知らず、フツメンの俺には許されないセリフだったのかもしれない。


少女マンガや恋愛小説をばっかり読んでいるので、ふと、あるマンガで見たセリフを言ってみたかったから実際に言ってみたが、どうやら失敗に終わってしまったようだ。


穴があったら入りてぇなぁ、おい!


「…………」

「…………」

「…………」

「………………ゴホン」


その後しばらく気まずい沈黙は続いていたが、それをやぶるように俺は咳払いをする。

取り敢えず、嘘コクの第1目の対策法にするか。

そう決めて俺は深呼吸をすると、言う。


「って事で、水川さん。ごめんなさい。しかし俺は貴女の告白を受け入れる事は出来ない」


そう言った途端、彼女は目を大きく見開いて青ざめた。

あれ? どうかしたのか?

それに雰囲気も変わったように感じる。


何、その反応は?

ガチでしょんぼりしているように見えるが、演技か何か?

とても上手だと思うけど、もし演技だったら。


「実はさ、俺はこれが嘘コクって事をもう知っている」


因みに嘘コクの第1目の対策法は単に告白を断って泣き出す前に立ち去る事だけだが、何故か彼女を見れば、せめて理由だけを説明せずには居られなかった。


「キミは1年生って言ったろ? なのにずっと前から好きだったとか、嘘がバレバレ過ぎてバカな俺でも簡単に見破られるほどだった」

「え?い、いやそれは、あの…」

「まあ、今までの嘘コクの中で一番酷かったと言ったら嘘になるけどなぁ。むしろ、彼女どころか友達すら持ったためしがない俺はこんな美少女と二人きりで話す機会ができて、ラッキーだったぐらいな」


そう言うと、水川さんは一瞬浮遊しているように見えた。


やはり見れば見るほど、目の前の現実に偽りはない。

この子はめっちゃくちゃ可愛い。

絶対不変の事実だ。


「だからさ、お礼に水川さん、俺に何かして欲しい事が有る? 出来る事なら何でも1つ言う事を聞くので、遠慮なく言って下さいね」


別に他意が有ると言う訳では無い。

俺は只、彼女にお礼をしたいだけだ。

すると水川さんはあわてて両手を振りながら言う。


「否々。そこまでする必要が無いわよ」


そう言われてもなぁ。

なんか困る。

幸いな事に、既に1つ、良い事を思い付いた。


「それじゃあ……あれにしようか」

「あれって?」

「もう大分暗くなったし、俺と一緒に帰らないか?」

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