傘  〈習作〉

 好きな人の傘をもらった。声をかけられない内気な私にはすごい宝物だ。ものをなくしやすい彼は、こっそり持ち物にマークを入れている。この折りたたみ傘も例外ではなく、小さな持ち手に歪なサインが直筆で書かれていて、見るたびに微笑ましくなってしまう。


 帰りの時間は雨降り、彼が困っていた。私は思い切って傘を差し出し声をかける。

「一緒に駅まで行きませんか」

 彼の表情が固まる。

「僕の盗まれた傘、どうして君が持ってるの」

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