第37話

 小学2年生か3年生の夏休みのことだったと思います。あの子が友達と山に虫取りに行ってカブトムシやらクワガタムシやらたくさん採ってきたことがあったんです。

 それを自分で飼うと言い始めましてね。

 あまりムシが好きでは無い家内は嫌がったんですが、まあ、男の子なら一度はあることなので『きちんと自分で最期まで面倒を見ること』を条件に許可しました。


 最初の頃は、自分の部屋に虫籠を置いて観察日記をつけたりスイカをあげたり栄養ゼリーをあげたりと甲斐甲斐しく世話をしていたんですが、涼しい所に置いておいた方がいいと思ったのか、日当たりの良い自分の部屋から裏庭の日陰になっている小屋に持って行ったんです。

 私らは虫籠が部屋にないもんだから、友達のところにでも持って行ったんだろうと深く考えていなかった。

 それで数日もしたらその虫籠の存在を本人も忘れてしまった。

 気づいた時は全滅です。


 小学生なら有り得ることなので、私が気をつけていればよかったんですが、あの子もショックを受けましてね。

 一緒に裏庭に虫たちのお墓を作りました。


 その時に『アキラがこの虫たちを捕まえてこなければ自由に空を飛び回っていたのかも知れない。アキラのちょっとした行動が原因でこの虫たちが死んでしまったということをちゃんと考えないといけないよ』と、涙を流すあの子に言ってしまったんです。


 そのことを今でも少し後悔しています。


 私は猫も犬も好きなんですが、あいにくと猫アレルギーなもんでペットを飼うなら犬かなと思っていました。

 家内から子供が小さいうちはペットを飼う余裕はないと言われていたんですが、アキラが小学校の高学年くらいになったら考えようと相談していました。


 ですが、あの子はカブトムシの一件以降ペットを飼いたいと言わなくなってしまったんですよ。それまではショッピングモールのペットショップを通りかかると、この犬が可愛い、この猫が触りたいなんて言っていたんですが。


 やはりよほどショックだったんでしょう。

 ですが、そのうちそのショックも忘れるのだろうと軽く考えていました。




 しばらくして、あの子が中学生2年の夏の夜に、傷だらけの仔猫を3匹も山から拾ってきたことがありました。

 どうやら友達と一緒に遊びに出た際、たまたま見つけたらしいんです。


 とりあえず近所の動物病院で緊急的に処置してもらったんですが、ペットというのは保険が効かないのでかなり費用がお高くつきましてね。

 中でも一匹は後ろ足の骨を骨折していたんで、まあまあいいお値段になりました。


 治療をしてくれたお医者さんとは地域の祭りなんかでも一緒に参加してよく知っていたんで、なるべく負担がないようにしてくれたんですが、それでもかかるものはかかりますから。


 それで、その場にいた子供の親同士で頭を寄せ合ってどうするか相談していたんですがねえ。金額も金額なもので、急に支払えと言われても困るし、かと言って支払わないわけにはいかない。

 誰に責任があるというものじゃあないですが、誰かが責任を負わなければならない。よくある話かも知れないですが、簡単に済ませることはできませんでしたね。


 そんな時、アキラが急にこんなことを言い出したんです。


『この猫たちは僕が拾ってきました。だから、猫たちの命を拾った僕に責任があると思います。この猫たちの命を助けるのにお金がかかるのであれば、僕が自分で支払います。高校生になったらアルバイトができるようになります。だから父さん、それまで僕にお金を貸してください』


 その時、私は思ったんです。

 ああ、この子はずっとカブトムシやクワガタムシを死なせてしまったことを気にしていたんだな。と。


 私の言葉や、自分の行動と命の責任をずっと考えていたんだなとね。


 それで、私が治療費を受け持つことにしました。


 その後は、アキラだけでなく友達も含めたみんなで退院後の猫の里親探しをしたり、見つからなければ、神社の神主様のところまで相談しに行ってみたり、子供とは思えない行動力を見せてくれました。


 ええ、子供の成長というのは一瞬ですね。


 今の子供達は、インターネットという非常に力強い味方を手に入れています。周囲で忙しそうにしている大人になんでも聞かなくても、色々な情報を自分で探すことが出来ます。


 結局、猫の去勢手術と不妊手術をこちらの費用負担で行うことを条件に、神社で引き取ってくれることになりましてね。


 氏子さんたちから反対されながらも話をまとめてくれた神主様には今も頭が上がりませんよ。



 え?トータルの費用ですか?三匹もいましたからねえ。足の骨折や衰弱していた仔猫の治療費と不妊手術代、それと予防接種のワクチン代やら何やかんやで、全部で40万はいかなかったくらいでしたかね。



 ハハ…。流石に息子に40万も払わせる気はなくて、せいぜい10万も払ってくれればいいかと思って、『全部で20万円かかったから、半額の10万円を支払えば良い』と言ったんですが、『全部で20万円かかったのなら、全額支払う。そう約束した』と押し切られましたよ。


 ええ、40万と言わなくて良かったです。


 結局あの子は昨年の4月に高校に入学すると、5月から近所の書店でアルバイトを始め、6月の給料日から毎月2万円ずつ支払って、今年の3月に全額払ってしまいました。


 これでも色々条件をつけたんですがね。

 毎月治療費の返済額として受け取るのは、2万円まで。

 お小遣いからの返済は認めない。

 アルバイトが原因で成績が落ちたらそれ以降の治療費の返済は不要。

 定期テストでは必ず学年50位以内に入る事。

 あとは…、そうそう、私の扶養から外れられても困るので月8万円以内にしなさい。だったかな?


 あの子は全部軽々とクリアしてしまいました。

 すごいなと思う一方で、勝手なもので『払いなさい』なんて子供に言っておいて、実際支払われると、頼られていないようで寂しく思ったりするものですねえ。


 ですがねえ、私のつけた条件がゆえに、あの子の生活はアルバイトと勉強漬けになってしまったんじゃあないかと思うんです。…ええ、部活はやっていません。


 せっかくの高校生活なので、それ以外のことももう少し楽しんで欲しいと思いますね。学生時代の恋愛なんて二度とできないですしね。

 まあ試験の順位が落ちたらアルバイト禁止なんて言いながら、どの口が、何て矛盾を感じますが。


 責任感が強い、ですか…。あまり責任感が強すぎるのも考えものですよ。背負わなくても良いものまで背負おうとしてしまう。

 もう少し軽やかに生きてほしいとも思いますよ。



 そのお金ですか?そうですねえ。今度、妻の電動アシスト自転車を買う予定なので、その時に使わせてもらいましょうか。



 え?三郎さん、社割で安くしてくれるんですか?



 アッハッハッ…。いやいや、あいつの今後のために取っておいたりはしませんよ。

 子供にとってみれば20万円は大きな金額ですが、大人になって社会に出てしまえば何とでもなる金額です。

 せっかく貰ったので一円残らず使い切ってやるのが私たちの勤めです。



 それよりもう一杯いかがですか?

 ここは日本酒もなかなか良いのを置いてるんですよ……。







*****************





気がついたら、むさ苦しいおっさん達メインのお話が5話プラスα。

これ、ラブコメって言ってええんやろか…。




クレームは聞かなかったことにして、再度、御礼申し上げます。


相変わらずヒロインが出てこない上にスットロいスピードでしか進まない作品を読んでいただき、ありがとうございます。


でも、やっぱり一応謝っておきます。



それぞれのキャラクターには、それぞれの行動原理がある筈です。

た、たぶん。

あるんじゃないかな?

あったら良いな。

一応企業もそのような事があったり。

でもだからと言って6話近くやっちゃダメだろうよ(戒め)。

また辻褄が合わない箇所があったら、さらっと教えてください。自分の出来なさに絶望して、ふて寝します。



またエピソードごとに『応援するボタン』を押してくださっている読者様。


すごく励みになっています!…本当に、こんな作品でごめんなさい。

良くなくてもまた押してくれると嬉しいかも。




もしもこの作品を読んで「しょうがないにゃあ」と思っていただけましたら、お手数ですがタイトルページ・レビュー欄、もしくは最新話の下にある『★で称える』の『プラスボタン』をポチッとしてもらえると、とても嬉しいです。


気が向いたらコメントとか残してくださいませ。

あの、レビューコメントとか書いていただけると、泣いて喜ぶかも。誰がかは知らんけど。


ラストまで楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします。

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