第七話 夏休みの初日。面接へと向かうと、そこで瑠衣ちゃんと約束をした。
第七話
そして、始まった夏休み。
俺は結花の紹介で『喫茶店』のアルバイトの面接を受けに行っていた。
結花の友人の瑠衣ちゃんの家が喫茶店を経営していて、どうやら急にアルバイトが辞めてしまった為に人員が不足しているらしい
このままでは、彼女の中学校最後の夏休みが家の手伝いで消えてしまう。
との事だったので『接客業のアルバイトをしたい』と思っていた俺に白羽の矢が立ったようだ。
更に言うと、辞めてしまったアルバイトは『二人』らしく、瑠衣ちゃんの家の手伝いに結花も呼ばれているようだった。
正直な話。中学生が『アルバイト』をするのはダメだと思っていたし、両親も反対していたが
『お金を貰うわけじゃないし、友達のお家のお手伝いみたいな感じだからさ……ダメ?』
『まぁ……そうね。これも社会勉強かしらね』
『私としては反対だけど、裕也がきちんと結花を守ってくれるなら了承しようかな』
『それは当然だろ?結花の部活が終わったらだと思うから、それまでに俺が働いて経験を積んでおくよ』
『そうか……よし。わかった。じゃあ許可を出そう。結花。あまり褒められた行為ではないと思っているからね。十分に、行動や言動には気をつけるんだよ?』
これはつまり『SNSとかに迂闊に上げるなよ?』という意味だろうな。
『お友達の家のお手伝いをしてる』
なんて画像をアップしたら、
『中学生なのに働いてる!!』
『法律違反だろ!!』
なんてのが湧いてきたら大変だからな。
変なのに絡まれないようにするためもあるよな。
『うん。それはわかってるよ。きちんとお給料を貰ってアルバイトをするのは、高校生になってから。海皇高校はアルバイト禁止じゃないからね』
『ははは。もううちの高校に来る気満々だな』
『当たり前だよお兄ちゃん!!そのために夏の最後の大会では優勝して、スポーツ推薦で入学するんだから!!』
『それなら尚更、問題なんか起こせないな』
こうして、結花と共にアルバイトの許可を貰った俺は、早速夏休みの初日に『喫茶店 ル・マンド』へとやって来ていた。
今日の昼過ぎに面接に行くことは、既に電話で伝えてある。
電話に出た瑠衣ちゃんのお父さんからは、
『履歴書を持って来て欲しい。君の事は瑠衣から聞いてるよ。真面目な人柄だとは知ってるが、一応面接はさせて欲しい。一度話したいとは思っていたからね』
『過分な評価をありがとうございます。その期待に応えられるように頑張ります』
そんな会話をしていたので、面接に対しての不安は特には無い。
ただ、瑠衣ちゃんから一体どんな話をされていたのかは気になるところだけど。
彼女には何回か勉強を教えていたことがある。
結花の友達ということもあってか、話をするのは苦ではなかった。
俺がまともに話が出来る数少ない人の一人だな。
そして、瑠衣ちゃんは非常に勉強の出来る優秀な女の子だ。
一度教えたことはすぐに飲み込んで理解してくれる。
後は結花と仲も良く『親友』と呼べる間柄だろう。
瑠衣ちゃんも来年は海皇高校への進学を希望しているらしい。
結花とは違って、勉強での入学を狙っているようだ。
まぁ、彼女の学力なら余裕だろうし、『首席入学』
すら現実的に有り得る話だろうな。
そんなことを考えながら自転車を駐輪場に置いて、指定されていた裏口から店の中へと入る。
ちょうど今は昼の休憩の時間のようで、表の扉には『CLOSE』の立て札が立っている。
「失礼します。本日面接に来た南祐也です」
俺がそう言って中に声を響かせると、パタパタと足音を響かせて中から人がやって来た。
「こんにちは、祐也先輩。待ってました」
「こんにちは、瑠衣ちゃん。久しぶりだね」
中からやって来たのは、この店の看板娘の瑠衣ちゃんだった。
笑顔で挨拶をしてきた彼女に、俺も笑顔で挨拶を返す。
すると瑠衣ちゃんは俺の横にある下駄箱を指さして説明をしてくれた。
「靴はそこの下駄箱に入れてください。中にスリッパがあるのでそれを履いてくれれば大丈夫です」
「ありがとう」
「一応大きめのサイズなので、祐也先輩でも履けると思います。ですが、先輩も身体が大きいので、お父さん用の更に大きなのの予備がそちらにあるので、キツかったらそっちを履いてもらっても大丈夫です」
「あはは。お気遣いありがとう。でも大丈夫そうだね」
瑠衣ちゃんに言われた下駄箱から取り出したスリッパを履くと、少し小さく感じたけど履けないくらいでは無い。
まぁこのくらいなら大丈夫だな。
そして、スリッパを履いて中を歩いていると、隣の瑠衣ちゃんが俺を見上げながら羨ましそうに言ってきた。
「先輩は大きくて羨ましいです。私ももっと大きくなれたら良かったのになぁ……」
そう言う瑠衣ちゃんは俺の胸くらいの身長だった。
俺の身長は大体180cm程。
まぁ大きい方だとは思うけど、運動をしてるクラスメイトとかでもっと大きい人は居る。
うちの高校は強豪校だということもあって、バスケとかバレーをしてる奴なら190を超えてたりするからな。
そういうのを見てると、自分が小さく思える時もあるくらいだ。
父さんが185くらいだからな。自分もそのくらいだとは思うかな。
背が高い。というのは遺伝だし、小さいよりは大きい方が『見た目でかっこいい』と思われやすい。
こればっかりは運だからな。良かったと思ってる。
「父さんが大きいからね。その遺伝もあると思うよ」
俺が当たり障りのない答えを言うと、瑠衣ちゃんは少しだけ思案したあと笑顔で言葉を返した。
「そうなんですね。私もお父さんが大きいので、もう少し期待しようと思います!!」
「ははは。まぁ俺としては女の子は小さくても可愛いとは思うから気にしなくてもいいと思うけどね」
「むー。それは大きな人だから言える言葉だと思います!!小さい人間は1ミリでも大きくなりたいんです!!」
「ははは。ごめんね瑠衣ちゃん。俺が悪かったよ」
俺がそう言って瑠衣ちゃんに平謝りをすると、彼女は少しだけイタズラっぽく笑みを浮かべながら言ってきた。
「あはは。じゃあ許してあげる代わりに面接が終わったら勉強を教えてください。夏休みの宿題とは別なんですが、高校受験に向けた勉強で少し分からないところがあって……」
真面目な女の子だな。夏休みなんて宿題で手一杯の人がほとんどなのに、受験に向けた勉強までしてるなんて。
俺は彼女の意識の高さに関心を示しながら、言葉を返した。
「受験に向けた勉強までしてるなんて偉いね、瑠衣ちゃん。でもそういう事ならお易い御用だよ。どんな問題かは見て見ないとわからないけど、過去問なら自分の復習にもなるからね」
「ありがとうございます!!それじゃあ面接頑張ってください!!私は二階の自室で待ってますので、終わったら来てください」
「わかったよ。瑠衣ちゃんと一緒に働けるように頑張るよ」
そして、パタパタと去っていった行った瑠衣ちゃんを見送り、俺は彼女に案内された部屋の扉をノックする。
「こんにちは。面接に来た南祐也です」
そう扉に向かって声を掛ける。すると少しした後に中から
『待っていたよ祐也くん。入って来なさい』
という声が聞こえてきた。
よし。気合いを入れろよ南祐也。
コミュ障を治す第一歩だからな。
軽く頬をパンと叩いたあと、俺は「失礼します」と言って扉を開けて、部屋の中へと足を踏み入れた。
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