第二話 昼ご飯を食べながら、アルバイトをしたいと話をした。
第二話
「うん。今日のオムライスも美味しいね。俺としてはやっぱりこのチーズが中に入ってるのが嬉しいよね」
母さん特製のオムライスに舌鼓を打ちながら食べ進めていくと、真ん中の辺りでチーズが仕込まれているのがわかる。
すると、結花も俺と同じように伸びるチーズ頬張り、笑顔を浮かべながら言ってきた。
「私もこのチーズが好き!!やっぱりこれが無いとオムライスって感じがしないよね」
「ふふふ。そう言ってくれると嬉しいわね」
そして、オムライスを半分ほど食べ進めた辺りで、俺は母さんに話をすることにした。
「なぁ、母さん。ちょっと相談したいことがあるんだけどさ。良いかな?」
「あら、相談なんて珍しいわね?どうしたの」
小さく首を傾げる母さんに、俺は考えていたことを話して言った。
「明日から夏休みだろ?ちょっと『アルバイト』をしてみようと思ってるんだ」
俺がそう話を切り出すと、母さんは少しだけ眉をひそめながら聞いてきた。
「理由を聞いてもいいかしら?渡してるお小遣いが少ないから。とかかしら?」
多いのか少ないのかは分からないが、お小遣いとして月に5000円のお金を貰っている。
ゲームの課金に3000円。漫画とかを買うのに2000円。昼飯代は別に貰っているので、お小遣いが足りないという事は無かった。
友達もいないから『交際費』なんてのもかからないし……
お小遣いとは別として、今まで貰っていた『お年玉』を貯めている分もあるから、ゲームのハードを買ったりする時に使うこともあった。
だから、俺がアルバイトをする理由は『お金』では無いんだよな。
なので、母さんにその理由を話すことにした。
「別に貰ってるお小遣いが足りない。とか言う理由じゃ無いよ。俺がアルバイトをしたい理由はお金じゃない」
「そうなのね。じゃあ何が理由かしら?」
「社交性を磨きたいんだ。俺は結花と違って友達もいないしね。別にいじめられてるとかそういうのは無いよ?ただ、陰キャでコミュ障な性格だからね。それを改善したいと思ったんだよ」
こうして俺がまともに話せるのは『知っている人』だからだ。
知らない人が相手だと全く話すことが出来なくなってしまう。
少なくともどんな人とも、会話くらいは出来るようになりたいからな。
「そうなのね。すると裕也がやりたいバイトは……飲食店とかかしら?」
「そうなんだよね。それも裏方ではなくて、ホールに立って接客をやりたいと思ってる」
俺が母さんの目を見てそう言うと、母さんは少しだけ微笑みを浮かべながら言葉を返した。
「ふふふ。裕也が自分を変えたいと思うのなら私はそれを止めるつもりは無いわよ?それに、貴方は少しばかり自己評価が低いところがあるからね。陰キャでコミュ障だなんて自己評価は間違ってるわよ」
「あはは。それこそ身内の贔屓目も良いとこだろ。まぁでも母さんが賛成してくれて良かったよ。あとは父さんの賛成を……」
と、俺が言った時だった。
「私は反対だよ!!お兄ちゃんがアルバイトをするのは反対!!!!」
「……え?結花??」
「あら結花。なんで反対なのかしら?」
首を傾げる俺と母さんに、結花は眉を吊り上げながら言ってきた。
「だって!!お兄ちゃんがアルバイトをしたら私と過ごす時間がまた減っちゃうじゃん!!勉強に集中したいからって言うから、一学期の時は我慢したんだよ!!??」
「……あぁそういえばそうだったわね」
「夏休みはお兄ちゃんといっぱい遊ぶって決めてたんだよ!!アルバイトなんかしたらそれが出来ないじゃん!!」
そうだよな。一学期のときは結花に寂しい思いをさせてたのは事実だったからな。
だけど、アルバイトをするからと言って、結花を蔑ろにするつもりは俺には無かった。
寧ろ、こっちから結花に『デートの誘い』をしようと思ってたくらいだからな。
なので、結花に、俺は思っていたことを話して言った。
「なぁ、結花。聞いてくれないか?」
「……なに、お兄ちゃん。アルバイトを辞めることを決めてくれたの?」
ジトッとした視線のまま言葉を返す結花に、俺は話を進めた。
「アルバイトをするのは決めてた事だから、変わらない。だけど結花を蔑ろにするつもりは微塵も無い。と言うか、こっちから結花を『デートに誘おう』って思ってたくらいだからな」
「デ、デート!!!??」
「……あらあら」
俺の言葉に頬を赤く染める結花と、面白そうに頬を緩める母さん。
俺は結花に言葉を続けた。
「一学期では結花に寂しい思いをさせたのはわかってるよ。だからそれの罪滅ぼしもかねて二人で映画を見たりとかプールに行ったりとか夏祭りに行ったりもしようか」
「……お、お兄ちゃん」
「……もぅ裕也?母親の前で妹を口説くとはいい度胸ね?」
「あはは。そういうつもりじゃないんだけどな。でも俺だって可愛い妹と夏休みを楽しく過ごしたいって気持ちはあるからね」
俺がそう言うと、結花は微笑みながら俺に言葉を返した。
「もぅお兄ちゃん……私のことが大好きなんだからぁ……」
「当たり前だろ?」
俺が即答すると、結花は頬を弛めながらアルバイトの許可をくれた。
「えへへ。じゃあいっぱい夏休みに『デート』をしてくれるならアルバイトを許してあげるよ」
「ありがとう結花。そう言ってくれて嬉しいよ」
軽く安堵の気持ちを抱きながら、俺は結花にそう言葉を返した。
そして、食事を終えた俺は三人分の食器を洗うために台所に立っていた。
結花は自室に戻って自分の時間を過ごしている。
母さんは居間のテーブルで昼のワイドショーを見ている所だった。
昼の洗い物を終えた俺は、母さんの所に行って家事が完了した事を伝えた。
「母さん。洗い物が終わったよ」
「ふふふ。ありがとう裕也。助かるわ」
「いや、いつも美味しいご飯を作ってもらってるからね。この位はさせて欲しいかな」
俺がそう言葉を返すと、母さんは少しだけ真剣な表情になったあと、俺に言ってきた。
「裕也。もう少し聞きたいことがあるから座りなさい」
母さんのその雰囲気に、俺は何となく 何を聞かれるかを理解した。
「わかった。なんでも答えるよ」
俺はそう言葉を返したあと、母さんの正面の椅子に腰を下ろした。
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