仲間に裏切られた俺は新たに会得した超絶スキルで復讐する。金や地位をやるから仲間に戻ってくれ? そんな申し出など、もう遅い。
@chest01
第1話 冒険者ウォレスの自伝
『俺の名前はウォレス、今はギルドのマスターを務めさせてもらっている。ギルドへの参加は誰でも歓迎するが、うちに所属したい冒険者は是非とも、俺の自伝的なこの本を読んでおいてもらいたい。
「ウォレス、お前はクビだ」
ダンジョンの奥地で、リーダーのヨシュアが言った。
俺は地道にずっと頑張っていたのになぜ、と思ったが理由はすぐに察しがついた。
「俺がこのパーティーが犯した罪を調べていたからだな?」
「その通りだ。余計なことに首を突っ込みやがって」
「黙っていられるわけがないだろう。戦士ガデルは他ギルドとの暴力沙汰と恐喝、魔術師リンディーは禁止されている魔法薬の製造密売、神官エルザは布教の名目で旅に出ては違法アイテムの密輸入を繰り返している。極めつけはヨシュア、あなただ」
彼は勇者とまで呼ばれた、有力パーティーのリーダーとは思えない凶相で俺をギロリと睨んだ。
「ある村の地下に希少な魔法石の鉱脈が眠っていると分かった。あなたはその土地を我が物とするため、地上げ屋や悪徳商人と結託して立ち退きを迫り、村人が拒むと野盗の仕業に見せかけて村を焼き払った。そのせいで多くの死傷者が出て、焼け出された人たちは目論み通り、生活のために土地を売るしかなくなったんだ」
「ほう、勇者パーティーを隠れ
そういうとヨシュアは他の仲間に目配せした。彼らはそれぞれ武器を構える。
最初からそのつもりだったのか。
全員が実力者揃い、戦って勝てる見込みはない。
俺はなんとか逃げ切ろうとしたが、深手を負わされ、ダンジョン奥の崖に追い詰められてしまった。
「ははは、言ったはずだぞ? ウォレス……お前は、クビだーっ!」
「ぐわあーっ!」
半笑いのヨシュアに斬られた俺は底の見えない崖下へと落下していった。
即死こそ免れたものの、全身の打撲と骨折。
激痛で身動きできず、声も出せず──。
あとは暗闇のなかで死を待つだけか。
そう思っていると、柔らかな光が俺に降り注いだ。
「ウォレスよ」
「……?」
「私はこの地の自然と土地を司る女神アルテ」
「女神様?」
「信仰に厚いあなたの勇気に富んだ善行と悲痛な思いに呼び寄せられ、ここに
温かな光に包まれると体から痛みが引いていき、力が込み上げてくる。
「ああ、もう何ともない。それどころか力が溢れてくるようだ!」
「あなたが潜在的に持っていた強力な魔力とスキルが覚醒したのです。信じる道を邁進するために活かすとよいでしょう」
「ありがとうございます、女神様」
「正義はあなたと共にあります。これからも加護を与え続けましょう」
これも日々、お祈りを欠かさないおかげか。
思いがけず降臨された女神様に救ってもらえた俺は、新たな力に目覚めた。
強大な魔法力と無詠唱連続魔法スキル。
その名の通り、無詠唱、つまり本来隙が生じる呪文を唱えずとも連続で魔法が使えるスキルだ。
しかも魔法力に目覚めたことで大部分の上級魔法を知らず知らずのうちに習得できていた。
「俺にこんな潜在能力があったなんて」
ダンジョンの主ともいえる強力なモンスターを絶え間ない攻撃魔法の連発で瞬殺すると、その魔物が巣に蓄えていた数々のレアアイテムと財宝をゲットし、俺はダンジョンを脱出した。
それから俺は死んだことにして身元を隠しながら、あいつらの犯罪の確固たる証拠をつかむために東へ西へと奔走した。
その途中、ゆえあって他国から追放された聖女ルナリアを追っ手から助けた縁で、彼女を仲間に加えた。
お礼にと自己再生の回復スキルを付与され、ますます力を付けた俺のもとには、次々と賛同してくれる仲間が増えていった。
いよいよ犯罪の証拠が出揃い、これを届け出ればあのパーティーを正規の法で罰することができる。
ようやくそこまでこぎ着けた、そんなある日の夜──俺が生きていることを知ったヨシュアたちが襲撃してきた。
「構わねえ、そこらじゅうに火炎魔法を叩き込んで、あいつらをあぶり出せ!」
俺たちが宿泊していた村に、村人たちへの被害など考えずに無差別攻撃を仕掛けてきたのだ。
あっという間に村中に火の手が上がり、魔術師リンディーの召喚した低級モンスターが誰彼かまわず襲いかかる。
これが後にロトル村の惨劇と呼ばれる、夜襲の始まりだった。
「みんなは村人を守りながら逃がしてやってくれっ」
「ウォレス!」
「あいつらの狙いは俺だ。見つかった以上、ここで勝負をつける!」
ヨシュアたちは形振り構わず、動くものには躊躇なく攻撃を加えていた。
女、子供、老人──守られるべき弱いものから順に次々と殺していくさまは、残虐非道の一言ではとても言い尽くせない極悪さだった。
ここまで人は心を悪に染めきれるのか。心の邪悪さに果てはないのか。
「ヨシュア、俺はここだ!」
共に戦うと誓ってくれた仲間たちと一緒に、俺は奴等の前に飛び出した。
「ようやく出てきたか。俺たちを探っていた以上、そのチンケな仲間たち共々みんな死んでもらうぞ。もちろん、俺たちの姿を見た村人たちも1人残らずな」
「どこまで堕ちる! ヨシュア!」
「うるせえ! 勇者と呼ばれた俺にはすべてが許されるんだ! 何をしようと邪魔な奴等を口封じすれば、あとは俺を讃える輝くような英雄譚だけが語り継がれていくって寸法よ」
俺は改めて、決着をつける覚悟を決めた。
追放されたとはいえ、相手はかつて所属したパーティーだ。
その命を奪うことに抵抗がないと言えば嘘になるが、これほどの暴虐を許すわけいかない。
パーティー同士の戦いは激しく、
あいつらは村への被害を避けるという意識がないため、ところ構わず攻撃魔法をばらまく。
そしてときには、逃げ遅れた村人を背にすることで、こちらに攻撃魔法を躊躇させる戦法を使った。
卑怯極まりないやり方にこちらが劣勢になるかと思われた。
だが、神の加護、正しき信念、正義の願いを持つ俺たちが相手を上回った。
ルナリアの護衛役を務めていた女闘士シエラが戦士ガデルを倒す一方、魔力の対決では、悪しきものだけを焼き払う聖火の術でルナリアが魔術師リンディーを打ち破った。
俺も連続魔法でヨシュアの剣技をしのぎながら、とうとう奴を追い詰めた。
「食らえ、ファイアーボール!」
ファイアーボールは初歩の魔法。
だが、強大な魔力から放たれたそれは上級魔法に匹敵、いや凌駕するほどの威力を持つ。
膨れ上がった火球が直撃する瞬間、
「チッ!」
「!?」
ヨシュアはよりによって、仲間であるエルザを盾にしたのだ。
「キャアアア!」
悲鳴と共に火柱が上がり、火だるまとなった彼女は、ほどなく焼けただれた無惨な死体となった。
彼らの一員とはいえ、彼女にはまだ罪の意識があり、傷付いた者たちをこれまで回復術で癒してきたのも事実だ。
彼女を死なせるつもりはなかった。
それだけに、自分の魔法で手にかけてしまった罪悪感と悔いが俺を
その後悔の念が、仲間すら身代わりにするヨシュアへの怒りを焚き付ける。
「ヨシュア! 貴様ぁ!」
一点に破壊力を集束させた爆発魔法でヨシュアの剣をへし折り、防具をズタズタにする。
倒れて腰を抜かしたようにへたりこんだ奴に俺は鬼の形相で迫った。
するとヨシュアは両手を前に出し、
「ま、待て、待ってくれ、俺の負けだ。こんなんじゃ反撃1つできない、降参だ、なっ、降参する」
「ヨシュアッ! …………なら、すべての罪を認めて、償うんだな?」
「いや」
「!?」
「ウォレス、ここは1つ取引をしようじゃねえか」
「取引?」
「俺の貯めた金の半分、いや全部でもいい、お前にくれてやるよ。ダンジョンから集めてきた2つとない秘蔵のレアアイテムもやろう。ギルドの名誉メンバーの称号や肩書きもやるし、そうだ、貴族や王族と付き合えるように俺が繋ぎになってもいい。だからその代わり、俺を見逃してくれ」
「見逃せ、だと」
「悪くない話だろう。しばらく遊んで暮らせるだけの金と有力ギルドでの発言力、貴族や王族とのコネクションも持てる。何もかも思いのまま、酒も、女も、好きなものを好きなようにできる。俺を見逃すだけでそれが手に入るんだ、決して損じゃないだろ、な?」
「ふざけるな! これだけのことをやっておいて、頭1つ下げずに」
「あ、ああ、前にお前をダンジョンで襲ったことは今考えたら悪かったと思ってるよ。仲間としてもっと話し合うべきだった。だから、それは済んだこととして水に流してくれ。……それとも村を襲ったことを怒っているのか? こんな貧相な村、魔物の群れか何かに壊滅させられることなんかよくあることだろう?」
「よく、あること……?」
「そうだ、よくある、冒険してればたまに耳に入ってくる、ちょっぴり心が痛む不運な出来事さ。そう思って忘れればいいじゃねえか。金や権力が手に入れば、この程度の死人の数なんてすぐにどうでもよくなる。俺たちみたいに力を持ったものは、それが許されてるんだよ。な、だから見逃して、なんならまたパーティーでも組もうじゃねえか」
「……貴様、いい加減にしろ」
俺の怒りに呼応した魔力が、燃え盛る業火のように体から噴出した。
「どこまでも堕ちた奴め。少しでも過去を省みるならまだ救う価値もあるかと思ったが、お前のようなクズは一片の救いようもない。お前は、生かしておいては世のため人のためにならない人間だ!」
かざした俺の手のひらに膨大な魔力が集まっていき、それは数メートルを超えて、なお膨張し続ける火球となる。
「ひっ、ま、待て、助けてくれ! 同じパーティーだったよしみで、どうか俺を」
「黙れヨシュア! お前とパーティーなど、誰が2度と組むものかーっ!」
「ぐぎゃあああああ!」
大火球が炸裂すると、奴は炎の中で身をよじりながら断末魔をあげ、倒れてしばらくのたうち回ってから、やがて人の形も残さない消し炭となった。
勇者と呼ばれた傲慢極まりない冒険者の、いささかの哀れさも感じさせない最期だった。
こうして数々の犯罪を犯した極悪なパーティーを倒した俺は、あんな冒険者たちが2度と現れないよう、人々の平和に貢献できるような冒険者ギルドを新たに立ち上げた。
これからも苦難の日々は続くことだろう。
だが俺は仲間たちと共に、その役目を全力でまっとうしようと思っている。 』
「よくもまあ、こんな自伝が書けたものだな、ウォレス」
夜も更けたころ、屋敷に押し入った男は、広々とした
「! お前はヨシュア! 生きていたのか!?」
「ああ。あんな目に遇わされたんだ、やり返さなきゃ死にきれないからな」
「誰か、侵入者だ! 誰かいないか!」
「無駄だ。使用人は術で眠らせ、護衛たちはすべて気絶させた。斬ってもよかったが、あいつらもお前の嘘に騙された気の毒な奴等だからな」
マントと軽鎧を身に付け、髪を無造作に伸ばしたヨシュアは、腰に差した長剣の柄に手を置く。
ウォレスは神妙な面持ちで椅子から立ちあがり、対峙した。
「極悪な勇者を倒した善良な冒険者、を売り文句に、今や有力ギルドのマスターにまで成り上がるとは……。ウォレス、上手くやったものだな。そんな貴族様みたいな裕福なナリをして、ずいぶんと羽振りが良さそうじゃないか」
壁一面に大きな窓が取られた部屋はカーテンもカーペットも最上級品。高級な調度品が並び、これでもかと
「まったく、なにが数々の犯罪を犯した極悪なパーティーだ。その本に書かれている悪事は、
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