第43話 鶏鳴狗盗
咸陽を出て1時間。獣化したピットたちは道を一気に駆けていく。
太兵衛は槍を背負い、やや蛇行しながらもスピードを落とさずに飛んでいる。
鳥車で数日掛けてきた道のりも、この姿であれば1日ちょっとあれば着く。
森を駆け抜けると、幅100m程の川を渡る橋があり、その先に砦のある関所へ到着する。
時刻は午前3時、村は寝静まり砦の門は閉じたままである。
「追撃隊の心配はないと思われますが、一刻も早く突破しなければ、亜父の手の者が門の封鎖を行うやもしれませぬ」
官兵衛は告げるが、どんな策を用いても時刻を進ませる事は出来ない。
「あの、私で宜しければ門を開けてみましょうか?」
射陽侯が付けてくれた男が告げる。
「おぉ、あの門を開けることができるのか?」
「はい、砦の兵たちは鶏の声で朝の業務に入ります」
「私が鶏の鳴き声をまねて、他の鶏たちを起こします」
そう言い終えると男は鶏の鳴き真似を始める。
「コケコッコー!」
その鳴き声を聞き、他の鶏たちも一斉に鳴きだす。
「「コケコッコー」」
暫くすると門番の部屋に明かりがともる。
官兵衛はすぐさま門番に割符を渡し、無事門は開かれる。
男はすぐに射陽侯に報告すると、来た道を戻って行った。
こうしてピットたちは無事自国へ戻ることができた。
「人にはいろいろな特技があるものじゃな」
「うむ、普段はつまらぬと思っている芸でも、こんな形で役に立つとはな」
太兵衛と又兵衛は感心して話す。
「我々の街が見えてきましたぞ!」
ピットたちは全員、無事国に戻ることができた。
明け方、コボルト斥候が砦に到着した。
「亜父様の使いで来た」
「誰かこの門を通ったか?」
「はい、2時間ほど前にウサギと虫たちが割符を見せて出ていきました」
「割符?」
「はい、国発行の割符だったので間違いございません」
「なぜそんなに早く通した?」
「朝を告げる鶏が鳴いたからです」
「そうか…ご苦労だった」
門を抜けたならもう追いつけないな、とコボルト斥候は帰って行った。
間もなく、コボルト斥候が来た道を戻っていると、陳平率いる追撃隊と遭遇した。
「追撃隊の方々、残念ながらウサギ一行は国外に出てしまっております」
「そうか…斥候隊の方々、ご苦労であった」
そうあいさつを終えると、亜父報告の為斥候隊は急いで帰途した。
「我らも戻るぞ!」
陳平も部隊を引き返し帰路へと着く。
そうか、無事脱出できたか。あとはこちらで準備してお待ちしております…
陳平は次に会える日を楽しみにして待つ。
斥候隊の報告を聞いた亜父は、そうかと告げ斥候隊を下がらせる。
天を見つめ、亜父は呟く。
「ああ、我らはとんだ獅子を野に放ってしまった…」
「せめて、奴らの攻勢に対抗できるよう、兵を鍛えねばな…」
亜父は今後の苦境を予想しながらも、次の準備を考えていた。
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