第16話 大王、おおいに怒る

ゴブリン部隊全滅の報は、すぐさまレッドキャップのもとへと届く。


「大王様、報告がございまして…」


報告者の歯切りの悪い言葉に、酒を飲んで上機嫌だったレッドキャップの顔に怒りが現れる。


「何を言いたいのかサッサと言わんか!!」


「はっはいっ!」


報告者は背筋をピンと伸ばして報告を始める。


「現在ナインテールに進撃中の主力部隊であるゴブリン部隊が…昨日を最後に消息不明になりました」


その報告を聞いたレッドキャップは、酒を注いだ器をそのまま落としてしまう。


「何を言っている?2000もいたのだぞ?しかも烏合の衆ではなく、ロードやシャーマンも複数いたのだぞ?そのようなもの、虚報に決まっておる!」


レッドキャップは信じられないと怒りを併せ持った顔で報告者に告げる。


「いえ!間違いではございません!監視につけておいたコボルト斥候が、ゴブリン隊が陣を張った翌日に見に行ったら何もない更地になっていたと…」


報告者が話し終える前に、酒瓶が飛んでくる。


「黙れ!それ以上話すと首を刎ねるぞ!!」


「ひぃー!」


怒りにレッドキャップが腕を振り上げると、隣の熊が窘める。


「大王、報告者を責めても何の意味もございませぬ。まずはすべての説明を受けて質問してまいりましょう」


レッドキャップは先ほどまでの怒りをすぐに納め、彼に謝る。


「すまなかった亜父、つい取り乱してしまった。」


がっかりしたレッドキャップを、亜父はよしよしと背中をさすり、再び報告者に問いかける。


「で、報告ではそのゴブリン部隊が消失した付近には何かなかったか?」


少し考えて報告者は答える。


「はい、その更地から道が伸びており、その先には突然現れた村があるとの事でした」


「村か…ふむ」


亜父は自身のあごひげを触りながらレッドキャップに報告する。


「おそらくゴブリンたちは、この村のものによって始末されたのでしょう」


「なんだと?」


レッドキャップは亜父を睨みつける。


「彼らは何らかの手を使って丘に陣を張らせ、奇襲をかけて殲滅したのでありましょうな」


レッドキャップは驚愕する。


「そんな…どんな手を使えばそのようなことができるのだ?」


「情報をつかんでおれば、不可能ではございませぬ」


「むしろ問題は、それを考えて実行できる者たちであるということです」


レッドキャップは汗をにじませる。


「大王、かの領地に使者をお送り、こちらに付くよう説得いたしましょう。使者は…あの切れ者の狐が適任でございましょう」


「それで、こちらに付かぬ場合は?」


「その場合は真っ先に潰すべきです!彼らが他の勢力に付かぬうちに全軍団でもって潰しに参りましょう!」

「奴らはそれほど危険な存在です!」


ふむ、と嘆息をいれ亜父に同意する。


「早速使者を送るとしよう、あの狐を呼べ!」


「しかし、あのマタくぐり野郎!、あいつが兵を出しておれば全てうまくいっておったのだ!」


激高するレッドキャップを、亜父は厳しい目で見つめ、心に思う。


(大王様はいつも大事なところで判断を誤ってこられた。今度こそはそうならぬようにせねば…)


亜父は心の中でそう決意する。

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