描く、書く、という、核

ただそれだけ。

 はじめ、そのコップは結露していた。お店に並んでいた時から薄い灰色だったんじゃないかと思うほど水滴が重く固まっていた。

 いや、はじめからではなかった。水の入ったコップを前に手も足も出ず、漫然とスケッチしているうちにいつの間にかこうなっていた。


 万事につけて凝りすぎてしまう性が、今回も邪魔をしにやってきたようだった。

 グラスの先の景色を透かして見せてくれない水滴のように。

 

 だから、見る。だからこそ目を凝らす。自分との付き合い方は十分に心得ていた。雨雲のように曇ったコップに衝突するのではなく、透き通った水面にダイブする(ぶつかると痛いしね)。

 ざばりと飛び込んでザバザバ揺れる。自分が起こした波にさらわれて揉みくちゃにされた。


 ややあって、目を開ける。天使の梯子のように照らす蛍光灯、地平線のように広がる机の木目。立ち上った気泡は水底のグラスの模様を運んでいて、弾ける度にこの水面にも美しく浮かび上がる。飛行機の窓を思い出した。雨雲の向こう側にだって快晴はある。


 瞬きして目を開ける。

 グラスは晴れ渡っていた。

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