僕らしい物語?②

崔 梨遙(再)

1話完結:1900字

 聡子と僕が出逢ったのは新幹線の中だった。指定席で、偶然隣に座ったのが聡子だった。


「○○○○(彼女の読んでいた本の題名)ですか?」

「え? ええ」

「僕も読みました」

「そうなんですか?」

「女性心理について、勉強させてもらいました」

「そうですね、心理描写が上手ですよね」

「だから、○○(その本の著者)さんの本は結構読んでるんです」

「そうなんですか。○○(別の本のタイトル)は読みました?」

「読みました」

「おもしろかったですよね?」

「おもしろかったです」


 という感じで話が盛り上がったのだが、僕は次の駅で降りるのでお別れしなければならない。


「お話できて楽しかったんですけど、僕、次で降りますので…」

「あ、私も次で降りるんです」

「そうなんですか?じゃあ、良かったら食事に行きませんか?」

「いいですよ、行きましょう」


 それが、僕と聡子の始まりだった。ちなみに、その頃、僕達は滋賀に住んでいた。


 そして、なんと、僕達は交際するようになった。共通の話題もあるし、何度か会っている内に僕の方が聡子を独占したくなって告白した。そしたら、すんなりと“OK”された。


「いつ告白してくれるのか、待ってたんやで」


と、聡子は言っていた。僕は、OKしてもらえると思っていなかった。聡子が美人でスタイルも良かったからだ。


「絶対に彼氏がいると思ってたわ」


と言うと、


「ちょうど、別れたところやねん」


と言われた。タイミングが良いというのはあるものなのだなぁと思った。


「僕も、別れたところやねん」


 聡子は銀行員で、僕より8つ年上の30代だった。彼女は3LDKのマンションを購入したところだった。僕は、


「泊まって行きなさいよ」


と、毎晩言われているうちに、聡子のマンションから通勤するようになった。要するに、同棲を始めたのだ。一緒に暮らすようになっても、僕らは仲が良かった。このまま結婚するんだろうなぁと、漠然と思っていた。


 僕と聡子は毎日を楽しんだが、ある日、僕の状況が変化した。仕事で名古屋へ行くことになったのだ。勿論、聡子と一緒に名古屋へ行くつもりだったが、


「名古屋で暮らすなんて、無理やわ」


と言われてしまった。正直、予想外の返答だった。


「なんで、ついて来てくれへんの?」

「私、一人娘やから将来的には親の面倒を見ないといけないし」

「じゃあ、いずれご両親にも来てもらうということで、みんなで名古屋で暮らそうや」

「マンション買ったばかりやし」

「売ったらええやんか」

「私はね、前の彼氏とは婚約してたの。でも、破棄になってしまった」

「そうやったん?」

「だから、もう結婚しない、男性とお付き合いもしないと決めてマンションを買ったの」

「婚約していたとか、初めて聞いたんやけど」

「話したくもなかったから」

「ほな、僕は聡子の心の隙間に入り込んだだけの存在なんかな?」

「そんなんとちゃうよ、もう、誰とも恋愛できへんと思っていたのに、また恋愛ができた。崔ちゃんのおかげやで」

「僕のこと好き?」

「好き」

「だったら、ついて来てくれや」

「結婚して、もし離婚になったらどうするんよ。私、転職したら今ほど稼がれへんよ。そんなん、怖いわ」

「離婚にならへんよ」

「あなたは一度、離婚してるやんか」

「そう言われると、ツライな」

「離婚するつもりで結婚はせえへんけど、離婚はありえるやんか。私は婚約破棄になったから、臆病になってしまってる、だから、やっぱり名古屋には行けない」

「僕を愛してるなら、一緒に行こうや」

「ほな、私を愛しているなら滋賀で仕事を探してよ」

「確かに、そういう道もあるな。でも、滋賀では好きな仕事ができへんねん」

「崔ちゃんも、一歩も譲らへんやんか」

「そうやなぁ、僕も求めてばっかりやな。反省するわ」

 僕たちは、それぞれしばらく考えることにした。


 1週間後、僕の方から言った。


「考えてくれた?」

「考えたで」

「僕達、どうするのが1番いいかな? 聡子は、どんな未来がいい?」

「結婚して、私は銀行で働き続けて、崔ちゃんも滋賀で仕事を見つけて、このマンションで一緒に暮らすの」


 僕も、そういうことが出来たらいいなぁと思って、あやうく泣きそうになった。


「楽しそうやな」

「ええやろ」

「うん。でも、僕は自分が好きな仕事をしたい。その為の名古屋やから。ほんで、そばで聡子に笑っていてほしい」

「それも、実際にやってみたら楽しいのかもしれへんな」

「うん」

「でも、お互いに譲らないから、私たちはお別れやね」

「そやな」

「崔ちゃん、今までありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」



 僕は1人で名古屋へ引っ越した。







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僕らしい物語?② 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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