普段は無口なのに食べ物のことになると別人のように喋りだす女の子は真の力を開放することで異世界最強の魔女になれる――その子と相棒になった男はおしゃべり機関車というあだ名の一人で喋り続けるヤバイやつだった

秋山機竜

プロローグ パワードスーツと魔法使い

 魔王が滅んだのは何千年も前の話だ。魔王討伐をやり遂げた勇者も歴史の一部になって、いまでは映画や漫画の題材になっている。


 だがモンスターだけは、現在進行形で問題を起こしていた。


 人類側も居住地の圏内にモンスターが入り込まないように対策は施してあるのだが、いかんせんモンスターは自律して動く生き物なので百パーセントの保証はない。


 ちょっとした拍子にモンスター災害が発生するため、対モンスター用の人材は絶対に必要であった。


 しかし人材の確保が難しい。なぜならモンスターには物理攻撃が通用せず、魔法攻撃のみが有効だからだ。


 そんな事情があれば、古来よりモンスター退治を担当していたのは、魔法剣士と魔法使いであった。


 だが人類の科学&錬金術は日進月歩であり、軌道エレベータが月から鉱物資源を降ろしてくる時代になれば、異なるアプローチで人材を確保できるようになっていた。


 科学と錬金術を複合した技術により、魔法攻撃可能な人材を人工的に生み出せるようになっていたのだ。


「とんだ新商品の発表会になったな。お菓子企業も災難だぜ」


 対モンスター用パワードスーツ【エーテルアーマー】を装着した青年が、対モンスター用の武器である高周波ブレードでモンスターの群れと交戦していた。


 彼の名前はザーセク・ハンライム。人懐っこい犬みたいな顔をした二十歳の青年で、プロレスラーみたいに大柄な肉体であった。だが威圧感はない。なぜならおしゃべりが大好きなので、明るく開放的な雰囲気であふれているからだ。


 そんなザーセクの後ろでは、魔法使いの女の子が攻撃魔法をモンスターの群れに撃っていた。


 彼女の名前はルル・ミエ・アルト・ガンドラーム。仏頂面で無口な二十歳の女の子だ。黒檀みたいに高級感漂う黒髪、中学生に間違えられるほどの童顔と低身長、ただし胸元だけは年相応に大きく実っていた。


 そんなアンバランスな体型も、魔法使いのローブに隠されているので、まったく目立っていない。


 一番目立っているのは、マジックアイテムの眼鏡だった。


 この赤いフレーム眼鏡の用途は、視力を補正するためではなく、おしゃれ目的でもない。


 一種の封印装置であった。


「…………」


 ルルは極度の無口なので、たとえ戦闘中であっても、必要がなければまったく喋らなかった。


 そんな彼女の性格を、相棒であるザーセクはよく理解しているため、返事を無理強いしなかったし、たとえ質問を無視されても怒らなかった。


 というかラジオみたいにひとりで喋るのが大好きなので、ただ聞いてもらえるだけで満足なのだ。


 いやそれだけではない。ザーセクは一方的に喋っているように見えて、実は相棒の内心もそっと察していた。


 せっかくお菓子メーカーの新商品発表会で試食していたのに、それをモンスターたちに邪魔されて不機嫌なのだ。


 ザーセクは相棒の機嫌を直すために、モンスターの群れをぶった切りながら、声をかけた。


「おいルル、この現場が終わったら、口直しにパン食べ放題行こうぜ。ボーナス入るし、おごってやるよ」


 いつも仏頂面で無口な彼女も、食べ物のことになると「むふーっ! 食べ放題は神!」と目を輝かせて鼻息を荒くした。


 そう、彼女は基本的に無口だし無気力なのだが、食べ物が関わったときだけ饒舌になるのだ。


 おしゃべりザーセクと、基本無口なルルのコンビが、なぜお菓子の新商品発表会でモンスターと交戦しているのか?


 それを説明するために、ほんの数分前にさかのぼりたい。

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