1546年 太宰府再建

 一揆と粛清により冬の一部工期が遅れたが、下関の町(勝山城下町)から山口の町までの舗装された道が完成し、今まで馬で一刻近くかかっていた山口までの道のりが四半刻(30分)短縮して通れるようになった。


 街道は武断派を粛清したことで土地を直轄化たり、文治派領も関所よりも税を巻き上げる仕組みを作ったことで下関から山口までは関所がなく通行することができる。


 しかも街道沿いは昨年からお店が立ち並び、凄まじい賑であった為に、山口の町と繋がった際にも山口の町から暖簾分けした商人達が店を構えた。


 お陰で新造硬貨も工事の代金として支払い、それを街道沿いの店ではちゃんと取り扱いをしたことで、信用が生まれていた。


 この道作りや商店作りで得た技術を転用し、太宰府復興計画が本格的に始動。


 銭で雇った兵達に土地の整地や支柱を埋める穴掘り等を行わせ、大工達が本殿等を再建していく。


 予算は明との貿易によって出た利益の半分を投入した一大事業であり、失敗は許されない。


 今回建てられるのは宝物殿、書院、桜門、本殿、侍詰め所、儀式殿、浮殿の他、天満宮(菅原道真公を祀る神社は天満宮とされる)として神社の機能回復も行う。


 また、太宰府から博多までの道も街道を通した。


 この事業の指揮は私がしていたが、実績としては太宰大弐の父上が命令したことになるので、最終的な実績は父上の所に集まる。


 私はこの宝物殿に相応しい宝具を幾つも作り、奉納していった。


 私が作った宝具として中華の七宝剣伝説に基づいて7つの宝剣を作り、七色に光り輝く刀を作り、納めた。


 太宰府再建は一年かけて行われ、当時の日ノ本の最先端技術が多く盛り込まれ、本殿等が完成後に太宰府内に政務所等の実用的な場所も建造され、九州の政務を取り扱う場所としての力を取り戻すのであった。


 ここで、私は九州の勢力に踏み絵を行う。


 太宰府再建に伴い宝物を納めに来るように父上名義で各勢力に文を送り、大内に敵対するかどうかを選べとした。


 これに応じたのは大友、相良、阿蘇、島津、伊東、有馬、秋月は挨拶と宝物を持参し、これの返礼として唐物の茶器や新造した銭を贈り、鐚銭を黄銅銭こと天文通宝と鐚銭を持ち寄った諸勢力が特をするレートでの交換を行った。


 現代で言うところの旧千円札を新千円札に交換すると新千円札が二枚貰えるくらい破格であった。


 そもそも鐚銭は取引拒否されるくらい扱いが悪いので、それを新造硬貨と交換してもらえるだけでもありがたいのに、利益まで出るので持ち寄った各勢力はウハウハである。


 天文通宝の普及の為に大内としては多少損をしたことになるが、微々たる支出であり、問題無い。


 島津忠良とも再会し、私が与えた甘芋により民は飢える事が減り、サトウキビの栽培で得た砂糖と邪魔だった火山灰が共に銭になったことで薩摩における島津の求心力は天元突破しているらしいし、私が大内の跡取りになったことを喜ばれた。


「安慈殿···いや、今は義植殿が大内を継げば大内だけでなく九州も安泰になるでしょうなぁ!」


「その為にも不埒者を滅せねばなりませんがな」


「肝付攻めは是非島津を先鋒にお使いください」


「九州の朝廷の権威回復を担う太宰府再建に立ち会わない者は···ねぇ、そして肝付の大隅国はこうして太宰府再建にいち早く来られた忠義の島津家が統治するのか相応しいでしょうなぁ」


「大義は我らにあり」


 というか今の島津家は四つ巴だった南九州の三州は島津対三家(相良家、肝付家、伊藤家)の同盟により拮抗状態となっていた。


 島津家が三家と渡り合える理由は兵の強さもあるが、琉球貿易や大内との貿易で銭を大量に稼げた事も大きい。


 この影響か、島津家は史実よりも早く家中の統一が進み、島津忠良と嫡男かつ宗家の乗っ取りに成功した島津貴久の独裁が完成し、後進の育成に注力し、九州最強島津の基礎を固めていた。


 内乱と家中統一を乗り越えた為に優秀な将が筍の如く島津では育ち始めており、武断派を粛清したことで将の数が半減した大内とは大違いである。


 そう、大内は武断派を粛清したことで防衛は大丈夫であるが、拡張戦争をする将を失ってしまっていた。


 まぁ侵攻するとしても南東···四国侵攻であり、瀬戸内海の宗像水軍と村上水軍は支配下に抑えているので渡航の問題は無い。


 とりあえず九州を親大内で染め上げる為に調整をするのに三年から五年はかかるし、その間に小姓を中心とした私の配下や次世代を育成し、侵攻に使える頭数を揃える。


 そもそも四国の西側を押さえられれば豊後水道を親大内派で抑えることができ、博多-下関-府内-鹿児島の港町の海路が安定する。


 紛争地帯である肥前を通る西廻りの海路が使えない以上、九州を東廻りしたほうが安全性が高い。


 まぁ和船は東廻り、洋式の南蛮船の技術が使えれば外洋である西廻りの海路が扱いやすくなるので住み分けもできるだろう。


「日ノ本の為にも肝付家には島津に吸収してもらいましょう。資金や兵糧は大量に安く売りましょう。せっかくですから甘芋や砂糖を使った蒸留酒も作りませんか? 高く買いますよ」


「おお! それはありがたい!」


 島津と話を着けて、大友義鎮とも話をする。


 どうやら家督相続に向けた準備が終わったらしい。


 一年もかからずに盤面を整えた手腕は流石北九州の覇者に史実でなるだけのことはある。


「私から何か手伝いは必要かな?」


「いや、何も必要ない。これが終われば家中統制で数年は動けなくなる」


「まぁ私も家中を粛清したから数年は動けないだろうな。内政に注力するには良い機会だ。義鎮もそろそろ子供を作れば良いのに」


「義植こそ早く作れよ」


「いや正室の千怜は適齢期ではあるんだが、肉付きが悪くてな。色々食わせて体を作っている。義鎮の妹の文と家臣の相良のちよはそろそろ良い頃合いで、毛利の春香はもう数年待たねばならんだろうなぁ」


「そんなに肉付きって大切なのか?」


「大切だ。産後の体調の良し悪しに直結するし、子供の健康にも影響するぞ。元気な子供を産むには母体が健康でないとな。あ、水銀や鉛を使った白粉は使わせるなよ。母親も赤子にも毒だからな」


「美人薄命にはもしかしたら白粉の毒の影響もあるのかもな」


「確かに···私はありのままが好きだからな。(肉体改造はするが)化粧で化かすよりも素の方が美しいと思うが」


「まぁこっちも嫁とは仲良くやっているよ」


「せっかくだ。家臣で子供が産まれなくて悩んでいた夫婦が子沢山になった秘薬があるが使うか? 毎年子供には恵まれるぞ。性欲も強くなるがな」


「せっかくだ頂こう。毛利の兄貴(毛利隆元)にもその薬やれよ。内藤家(私の粛清で陶家と一緒に没落)の娘が正室だったろ。子供でも産まれないと肩身が狭いだろう」


「あー、確かになぁ。隆元にも薬を贈るか。毛利家からも太宰府再建の贈り物が届いていたからな」


「九州でもないのに大変だなぁあそこも」


「経済圏が大内に依存しているからな。商人の殆どが大内の紐付きだし」


「それはそれは···」


 こうして太宰府は再建され、本殿が出来上がったため、朝廷に献金や食料、唐物の茶器等の一部を贈ると天皇は朝廷の権威が久しく向上したことに喜び、公家達は贈り物により家内の財政が安定したことに喜んだ。


 で、菅公(菅原道真公)を祀る太宰府を管理する公家が居ないのは困ると言い、常盤井宮恒直親王(太宰帥の役職をちょうど持っていた皇族)が太宰府に来てくださることになり、殿下(常盤井宮恒直親王の敬称)は


「道真公は左遷であると嘆いたが、今の京の現状を考えると極楽に等しい場所である」


 と太宰府の造りを大いに褒め称えた。


 本来太宰帥は太宰府に赴任しないのが平安の時代より習わしであったが、親王とはいえ朝廷の困窮具合や太宰府が復興することで水面下で計画されていた山口遷都計画を潰す意味合いも込めて殿下が太宰府に下野されたことになる。


 で、殿下の初仕事として太宰府再建に協力してくれた家々に官位を与えた。


 と言っても太宰師が正三位(昔は従三位であるが時代流れや兼職の兼ね合いで殿下は正三位である。まぁ本来なら従五位の役職である太宰大弐が父上がなったときに従四位だったので太宰府の階級が決められて八百年が経過すれば一段階か二段階は階級が上がったのだろう)なので、それに見合った役職しか与えられない。


 それでも今まで無官位だった者にも位官が与えられるのは大きく、新たに五十名程が太宰府関連の役職を拝命したことになる。


 特に太宰府建築で活躍した大工達や商人にも官位が与えられ、その者達は時の人になることになる。


 太宰府再建に伴い、殿下と一緒に京を下野した公家も少なくなく、大内領内で山口の町と太宰府周辺という二つの小京の町ができることになる。


 町の権限や権威を分散させたことで太宰府から山口の行き来が活発化し、中間地点の下関が更に潤う仕組みだ。


 大内経済圏の活性化をとにかく考えての一手であるのだった。

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