1545年 三者会議 鉄砲伝来

 春になり、朝廷から長門や周防に鋳造所が置かれていた歴史的前例を三条(太政大臣)とこちらで保護している二条(左大臣)両名が引っ張り出してきて、朝廷を説得したことで、鋳銭司の役職と鋳銭司が長門国司を兼業していたため、長門国司の地位も付いてきた。


 まぁそれでも長門国国司の守(長官)の地位が従六位下なので鋳銭司の役職を合わせて正六位下の二階級上げた地位が私に贈られた。


 まぁ父上(大内義隆)が私のに合わせて正三位(ちなみに室町の現在の将軍が従三位なので官位で将軍を超えてしまっている。まぁ歴代だと三代将軍の足利義満が正三位なので武家の限界点に到達したとも言えるが)というわけわからないくらいの地位に昇格していたので誤差であろう。


 というか周りから見たら私の地位は低すぎるのであるが···


 官位よりも実益である。


 私は職人達を集めて黄銅銭の製造を開始···朝廷のお墨付きと付き合いの深い博多商人が宋銭と宋銭二に黄銅銭一、鐚銭は八対黄銅銭一の交換を開始。


 鐚銭を新造硬貨と交換してくれること、価値を朝廷、博多商人、そして堺衆が価値を担保したこと、大内家が大金をかけて育てた職人集団により色合い良し(磨けば黄金の様に光る)、デザイン性良し(今の五円に近い、表に天文通宝、裏に稲穂の印)の宋銭に負けない品質なのである程度量を貯めてから秋に放出すると西日本を中心に広まっていった。


 鋳造所が機能したことで朝廷の権威が向上し、逆にこの新造通貨に全く関与できなかった幕府の権威は更に落ちることになるのだが、幕府は細川晴元が暴れまわっており(幕臣や細川譜代の大粛清及び反乱祭り)それどころでは無くなってしまう。


 まぁこの銭効果が出てくるのは来年以降であるので悪しからず。






 農繁期に突入したことで各地では農作業で大忙し。


 私自身も各地の村に向かいいざこざを調停していく。


 本来このような事を大内の後継者がするのはおかしいのだが、安慈時代の名声と抜本的な農業改革は私や側近衆を全員動員しても足りないくらいである。


 ここで私が関与している事業を纏めると


 ·流民の新規開拓

 ·酒造り

 ·塩作り

 ·道作り

 ·銭造り

 ·新農法の拡散

 ·養蜂

 ·しいたけ栽培

 ·芋類の普及

 ·小麦、大麦の普及

 ·ハリエンジュ(ニセアカシア)の植林

 ·良馬の繁殖

 ·養鶏

 ·果樹園の作り


 これに今年は真珠の養殖、味噌と醤油造り、それに伴う大豆の生産量の増加、油類の増産、木綿の栽培法の確立等やるべきことは山程ある。


 それと並行して家臣の粛清をしなければならない。


 明らかに業務過多であるが、どれもこれもやりたい事なので錬金術で作った栄養剤片手に大栗(愛馬)に乗って今日も村々を巡る。


 しかしこのタイミングで爆弾が発生する。


 大内義隆(父上)が継室のおさいの方と子供を授かったのだ。


 まぁ貴族が増長する原因となるおさいの方の親族は私が先手を打ち、お祝いと称して屋敷を訪れて遅効性の猛毒を仕込み、私も共に飲食をし、私は解毒薬を飲んだが、彼らは数日後に変死(毒殺)してもらい、財源を傾ける原因を排除したが、大内義隆が新しく産まれた子供を数年前に亡くなった晴持の生まれ変わりだと大喜びしている点である。


 子供が生まれて数日後に父上に呼び出され、家督相続の取り決めを再び話し合うことになってしまった。


「私的には義植がよくやっているのはわかるのだが、この度産まれた亀丸(亀童丸は私で使っているため童の字を抜いたらしい)に家督を相続したいのだが」


「父上は私がやはり嫌いな万里小路の子供ということで気に食わないですからね」


「いや、元々晴持が継ぐ予定だった家督だ。晴持が生まれ変わった以上、家督の相続権は亀丸に戻すが定めであろう」


 どんだけ死人である晴持を溺愛してるねんと思いながらも、今これに意を唱えれば陶が私を喜んで殺しに来るため、時間稼ぎをする必要があると考え、とりあえず家督相続権は亀丸が八歳になり元服したら相続権第一位の座を譲ると血印付きの書状を作って渡した。


 しかもこの段階で亀丸に何かあれば真っ先に私が疑われるし、父上も私が主導した各種政策の重要性を理解しているため、ギリギリ理性が働いて直ぐに相続権第一位の座を譲れとは言わなかった。


 そもそも血筋的には長男かつ位の高かった万里小路の子供である私が家督を継ぐのが普通であり、各種改革が終われば家臣達も私を支持するだろうし、民意も私にある。


 それを能力も家格も低い亀丸に家督を譲れば大内が割れるであろう。


 こういうところを見ると史実で陶が父上を殺した理由がよくわかる。


 まぁ陶自身がヤンデレ拗らせたのも原因ではあるが···


 男のヤンデレとか需要ねーよ。


 まぁこんな事が発生したので直ぐに家族会議を開催した。


 家族会議(大友義鎮と毛利隆元の次世代三者面談)であるが、各家も実は問題を抱えていた。


 まず義鎮の方は父親との対立が表面化しており、大内の影響が豊後の経済な内政にまで影響していたことを危惧した大友義鑑や反大内派が暗躍を開始しており、そのカウンターとして義鎮も味方になる家臣を集めている段階であるらしい。


 一方毛利隆元の方は毛利元就が偉大すぎて家督相続をしても誰も納得しないし、弟達が才能の片鱗を見せ始めて、自身の価値が次世代への繋ぎでしかないのではないかと思い始めていたらしい。


 隆元の内政能力は私が支援しているとはいえ、農法を吸収し、先って渡した真珠養殖の書物だけで再現に成功した事や奉公衆の雛形を組織しようとしていることから卓越しているのがわかる。


 ただどうしても毛利家は国人衆が母体であるため毛利元就の独裁で成り上がった現代のベンチャー企業みたいなものなので戦の強さが重要視される。


 その為、いくら内政で他家から評価されても家臣は隆元を評価しないのだ。


 と、三者三様の後継者としての問題が発生しており、大友は関係性が破綻しているので近々血を伴う親子争いが発生するだろうし、私も大内の家督相続は血を見るという言葉があるように流血沙汰になる可能性があった。


 隆元は既に自身では元就に勝てないし、家臣が家督相続しても付いてこないので家督相続を限界まで引き伸ばし、自身の長男が生まれたらその子が家督を継承できるようにすると言い切った。


「とりあえず大友の家督争いは義鎮に勝ってもらわないと九州のこれまでの外交が破綻する。全力で支援させてくれ」


「なら唐物や稀少な茶器や銭をくれ。それらをばらまいてこちらに中立の家臣を転ばせる」


「わかった。私の方は各種改革が上手くいけば家臣の支持は絶対になる。押し込めくらいはする可能性があるが大内義隆は内部事情を知らなければ西国総大将の名君だ。それに将軍よりも権威が高いから流血になれば毛利も大友も二人が味方と言おうと家臣が割れる可能性が高い。なるべく穏健にかたを付ける」


「それもそうだが家臣団は大丈夫なのか? 陶とかの武断派の怒りを買うような政策ばかりしているが」


「ああ、それは問題ない。正攻法では武断派の兵力に私は勝てないが盤外戦術を使わせてもらう」


「盤外戦術? 何をする気だ?」


「なに、仕込みは終わってる···後は着火を待つだけだ」


 私達の話し合いは博多で行われた為博多会議と呼ばれることになり、三家がいかに連携していたかを後世に示すエピソードとなるのだった。










 ある日商人が私に贈り物として南蛮の武器が手に入ったので日頃の感謝として勝山城にあるものが贈られてきた。


 そう、火縄銃である。


 種子島に鉄砲伝来したのが1543年であり、西洋式の火縄銃がこのとき日ノ本に辿り着いた。


 実はそれより以前に博多や山口の町では大陸より鳥銃と呼ばれる火縄銃が来ていたのだが、私は弩の取り扱いや戦術を発展させて、それを火縄銃に置き換えても良いと考えていた為に鉄砲伝来までは弩の研究の方に力を入れていた。


 ただもうこの時点で商人が言うには種子島では複製した銃が何丁もあると言われたので、即日私は火縄銃を分解し、設計図を描き、刀鍛冶を集めて火縄銃の研究と製造を依頼した。


 研究用の火薬は私が錬金術で作り、火薬の自国で生産できるようになれば火縄銃の量産を行い、その火力が揃えば尼子を倒すこともできるだろう。


 もしくは四国方面からの浸透をしても良いだろう。


 四国を抑えれば瀬戸内海の物流を大内の宗像水軍が握ることもできる。


 宗像の方も子宝に恵まれて男児だけでなく女児も産まれていると聞く。


 後継者が産まれた事や反発していた弟を粛清したことで宗像水軍及び宗像大社は指揮系統が統一されている為、日ノ本最強かつ東シナ海の制海権をある程度握り続けている。


 とにかくまずは火薬の自作である。


 私は硝石製造の為に五箇山(未来の加賀藩)が行っていた硝石製造法を参考に(フランス等の硝石丘法は雨季が酷い日本の気候には合っていない為、日本で生産していた方法を参考にした)量産の準備を始めたのだった。

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