1541年 宗像水軍衆と吉田郡山城
安芸入の前に大内の水軍衆の話をしよう。
大内は博多を抑え、倭寇という海賊と戦うために強力な水軍衆を二つ有しており、一つはこの後の歴史に多く出てくる村上水軍衆であり、もう一つは東シナ海及び貿易船の護衛を担う宗像水軍衆である。
宗像水軍とは宗像大社の宮司を務める宗像氏が率いる水軍であり、その勢力は倭寇を締め上げて明からも一目置かれていた。
ただそんな最強な宗像水軍なのだが、何故歴史の闇に消えてしまったかというと陶家と縁戚なのだ。
現在の宗像水軍棟梁である宗像正氏は正室との間に子供ができずに側室にしたのが陶隆房(陶晴賢)の姪っ子だった。
そう大寧寺の変より大内義隆が死んだこと、その実行犯が陶隆房であり、共犯者として周辺勢力から主君殺しの汚名を被ってしまったのが一つ、そして陶隆房が死亡する厳島の戦いにて毛利と村上水軍の共謀で宗像水軍が裏切りを働き、水軍を出さなかった為に陶軍は厳島から出られずに玉砕したと噂を流したことで名声、信用が地に落ちたこと。
更に家督争いで内紛が発生して収束した頃には全てが修復不可能なほど弱体化していたというオチである。
そこから大友と毛利の間をコウモリ外交した結果、大友宗麟の逆鱗触れて宗像大社ごと焼き払われ、宗像水軍は滅亡したという歴史がある。
ただ倭寇の重石になっていた宗像水軍が様々な要因で弱体化したため日本は外洋への航海する能力(東シナ海限定だが)を喪失し、明も日本と貿易を停止する羽目になる。
その為宗像大社により道をして宗像正氏と接触しておく必要があったのだ。
神社に僧である私が来るのは良い顔をされないが、安慈と名乗ると大友の若君と兄弟の契りを結んだ事が知られており、話をすることが許された。
「お初にお目にかかります。新村寺(僻地村の名前 新しい村だから新村 なんの捻りも無い)の住職をしている安慈でございます」
「宗像大社宮司である宗像正氏だ。この度は何用か」
「宗像水軍についてお話を伺いたく···もし正室に嫡男が産まれたらどうされますか」
遠回しに言おうとしたら嫌な顔をされたので言っている途中に本題に切り替えた。
これには直ぐに反応した。
嫡男不在の事は宗像にとって大問題であり、由々しき事態であり、夫婦仲の良かった宗像正氏が周囲に言われて無理やり側室を娶る羽目になっていた。
まだ側室とも子供がおらずまだ宗像氏の破滅から救うことができる。
私の言葉に反応した宗像正氏はどのような方法だと聞き、私は食事療法という食事を整えることで子宝をできやすくすると説明した。
一週間ほど私が作った食べ物を夫婦で食べて、その後交われば子供を授かると説明すると暗殺する気ではないかと疑われたが、では私自身と他の家臣の方が毒味をしてからでも良いのでと説明し、なんとか納得してもらえた。
一週間ほど私は料理に錬金術で作った精力剤と排卵誘発剤を混入させて食べさせた。
最初に私が毒味をし、次に家臣の方が毒味をし、それを確認してから奥方と共に料理を食べた。
食べ物は性が付くものを多くし、牡蠣フライや鰻の蒲焼、長芋のとろろかけ等を食べさせると直ぐに効果が出て、翌日毒味の家臣が私に
「棟梁達はいつもより長く交わっていたようです」
と下世話な話をされ、自身も活力がみなぎって凄まじい効果と言われた。
私自身も強力な薬を混ぜた為か精通してしまったのだった。
宗像大社から出るときには
「これはできたと確信が持てるほど濃いのが連日出た。子供が女子だったまた頼む」
と言われた。
ただ翌年ちゃんと元気な男子が生まれ、宗像氏の後継者問題が解決することとなり、側室との関係は冷え、後々陶家と敵対する選択を取ることとなるのだった。
さて、旅路を安芸に戻すが、その為には安芸国の現状について知って置かなければならない。
まず安芸国は国人一揆という国人衆による共同統治状態であり、その勢力の中で大内と各国衆との連絡役が毛利家であった。
またこの少し前までは安芸守護であった安芸武田氏が居たが、秋頃に毛利と大内対尼子の吉田郡山城の戦いが発生し、後ろ盾の尼子氏が敗走したことで、そのまま大内軍に攻められ安芸武田氏の領土は毛利家と大内家で分割され、滅亡していた。
他には水軍衆の小早川氏や安芸最強と名高い吉川氏等の有力国人衆が揃っており、安芸国内は結束することで他の勢力と渡り合うことができていた。
今回の尼子敗走により、安芸では尼子派が大内へと鞍替えが多発しており、大内家の事実上の保護国となり、早期から従属していた毛利家が相対的に力を持ち始めていた。
ただ尼子に勝ったことで周辺勢力だけでなく、京の将軍からの覚えも良くなっていたが、総動員によるダメージは深刻で、新領土が長年敵対していた遺恨の地であることや、城の修繕、総動員したことによる税の減収等で内情はガタガタであった。
「何故今なのですか?」
と円月が私に聞くが、逆に動けるのが歴史上今しか無いのだ。
この後に始まるは月山富田城の戦いであり、大内衰退に直結する大戦かつ、毛利が戦国大名へと脱皮するためのきっかけとなった戦いである。
歴史から逆算し、今であれば私の伝を最大限活かせると判断しての安芸入りであった。
「会ってくれるでしょうか?」
「大内の嫡男の名前を出せば会わざる得ないだろう」
吉田郡山城下町は戦火により焼けてしまい、再建途中であり、人々が必死に建て直しをしていた。
私達は衛兵を捕まえて、毛利の殿様か重鎮の方に会いたい旨を話し、亀童丸の名前を出して大内の嫡男がお忍びで来ているということを話す。
衛兵は僧の姿をしている私と円月を訝しんでいたが、城に使いを出すと数刻待たされた後に城に入ることを許された。
すると私達は城兵に囲まれた。
「ずいぶんと手荒い歓迎で」
「大内の嫡子の名を騙る悪党はここで成敗致す!」
「上々上々···では代表の者は居るか?」
「毛利家家臣の桂元澄だ」
「なに、私を討てば後悔するぞ」
「虚仮威しを」
「なに、確かに大内の嫡男は知恵遅れとされて見向きもされていなかったが···この通り知恵遅れも治り、安芸を任されている毛利元就他一族衆と面識を持ちたかったのだが···いやはや残念ですなぁ」
「···」
「では、縄を結んだ状態で良いので桂殿に知恵を与えましょうや」
「知恵だと?」
「ここに鐚銭(質の悪いお金、私銭ともいう)を一貫用意してあります。ここから銀を産み出しましょうや」
「なんだ、名を騙るだけに飽き足らず、詐欺までするのか」
「えぇ、えぇ、どこまで悪になれるか見てみたくはございませんか?」
「···なるほど、道化としてあくまで振る舞うか。面白い。良いだろう。縄で結ぶのは待ってやる。私が面白いと思えば開放してやる」
まぁ私自身大内の嫡子の名前を出したのは迂闊だったと少し反省するが、斬られる前に口八丁で処刑を永らえることができたので、色々と面白い事をしてみよう。
「ではまずは釜を作らせていただく」
といって、私は鍋を借りて幾つか紋様を刻み、火で表面を焼いて、錬金釜を作る。
「では南蛮絞り、灰吹、そして合せ銅という錬成術をご覧いただこう」
と私はまず鐚銭こと銅銭の束を鍋に入れる。
そして火を付けると錬金釜が赤くなり、銭が溶け始める。
これに鉛を加えて銅と鉛と銀、その他不純物の入った合金が出来上がる。
これを釜の温度を銀と鉛の融点以上、銅の融点以下に調整することで銀と鉛の合金と銅を分離する。
液体となった銀と鉛の合金を灰の入った容器の上に流す。
そして残った銅を鉄の棒を突っ込むことで銅を付着させ、純度の高い銅を回収する。
銅を回収し終わると灰と銀と鉛が混ざった物質が出来上がるので、それを更に錬金釜の中に入れて鉛と灰の酸化を促す。
すると純度の高い銀が再び出来上がる。
「これが南蛮絞り、灰吹、合せ銅の錬成術でございます」
周りで見ていた兵に抽出した銀を投げると
「銀ってこんな綺麗な物なんだな!」
「もっと濁っているよな」
と口々に言い始める。
「さて、銀を通貨としている毛利家の家臣がこの意味を理解できますよね」
桂はこの方法を見て瞬時に意味を理解した。
実は毛利領内の石見の土地にも大森山から中規模の銀鉱脈が数年前に発見され、毛利の貴重な収入源となっていた。
「鐚銭から銀と銅を分離する方法、そして今まで捨てられていた質の悪い屑鉱石を銀にできるとなれば、私を斬ることはできますかな? しかも私はこれを大規模でやる方法を知っている」
「···何が望みか」
「毛利元就殿と毛利隆元殿と御目通りを願いたい」
「···また城に来てもらおう」
城では私と円月が連れてきていた大栗等の馬を毛利家臣が取り囲んでいる最中であった。
「桂殿、先程の不届き者達を斬らなかったのか?」
「斬れぬ理由ができた。一度殿に話しを伺わねばならぬ」
「ならば待っている間に某が彼らに話をしたい」
話しかけてきたのは児玉就方という文武に秀でた武士であり、吉田郡山城の戦いでは抜け駆けをして武功を上げたものの二十日間の登城停止処分が下っていたり、血気にはやる部分はあるが、平時には優れた文官でもあった。
ちなみに児玉就方の兄は後々毛利五奉行と呼ばれる毛利隆元が作った奉行衆の筆頭として内政能力が凄まじい方でもあった。
そんな彼が話しかけてきた理由は大栗の雄大な姿を見て惚れ込んでしまったからであった。
「なぁ坊さんや、この馬を俺に譲ってはくれないか」
「この馬は無理ですなぁ。例え千貫積まれても渡すことができないでしょう。しかし、この馬の子も親ににて勇敢かつ雄大に育ちつつある。子で良ければ私が毛利の殿様と若君に斬られなければお譲りいたそう」
「まことか!」
「就方殿はこちらでも抜け駆けか!」
「拙者も是非お願いします」
「いや、我こそ相応しい!」
と揉めていたが
「ならば頑強な牝馬を集めておきなさい。私が贈る馬は子も同じく大きくなりやすい。馬を大切に育てれば毛利の新たな産業になるでしょうや」
とアドバイスをした。
そのまま二の丸にある客間に私と円月は通されるのであった。
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