亀童丸

 私の名前は亀童丸こと安慈と言うものです。


 転生者···と呼べば良い人種の者です。


 経緯を説明しましょう。


 まず私はちょっと変わり者ではありましたが、歴史に詳しい農家でございました。


 変わり者というのは職歴と性癖で、牧場でまず働き、自衛隊に入隊し、任期後はサラリーマンになり、庭師を選て、農家になった変わり者でございます。


 変な経歴でしょ? 


 で、性癖の方は後々わかるので今回は置いておきましょう。


 そんな私は嵐の日にちょっと田んぼを見てくるをし、突風で飛ばされてきた看板に直撃して亡くなるということをしてしまい、そこで一度目の生を終えました。


 目覚めると女神と呼ぶべき存在がおり、私に力を与える代わりに日本の歴史を大きく変えて欲しいと言われた。


 具体的には鎖国をしないで、西欧諸国と大航海時代をバチバチにやりあって文明レベルを大きく上げて欲しいとのこと。


 その基礎を私に作れとのこと。


 何故私かと言う問いは都合が良かったらしい。


 歴史に詳しく、低い文化レベルでも耐えられ、愛国心がある。


 少し性癖が悪さをするかもしれないが許容範囲とのこと。


 で、私に女神は三つの加護と新たな生を与えた。


 ただ加護の三つは選ばせてもらった。


 一つ目の加護は植物の加護。


 現在までに存在する植物の種や芋、苗を少量枕元に転移させる加護。


 二つ目は錬金術の加護。


 錬金術と呼ばれる行為を私自身に限り使えるようになる加護。


 三つ目は知恵の加護。


 今ある知識を忘れないようにし、錬金術に関する知恵を貰うという加護だ。


 健康や出身とかそういうのを選ばなくても良いのか聞かれたら、死んだら死んだ、立地や出身が悪くてもなんとか生き延びるよと答えたら女神は微笑んでいた。


 そして本来なら産まれることの無い夫婦の子供として誕生し、私が入ったことで赤ん坊は廃人となってしまったが、私が覚醒したことで現在に至る。


 まず出身を和尚に聞いて整理したが、どうやら大内氏という大名の家に転生したらしい。


 大内氏は現在が最盛期であり、現在の福岡から広島辺りまでを勢力下に置いており、明との勘合貿易の独占と経済都市博多の占有、石見銀山の経済力を持って約三百から四百万石相当の国力を保有していた。


 それを私の父親である大内義隆は貴族の保護や産業の興行に当てて、それが更に富を産む好循環ができていた。


 超勝ち組であるが、ここから大内氏は滅亡まで転がり落ちる事が確定している。


 それを覆すのも良いのだが、一度大内氏を壊さないといけない理由がある。


 まず家臣の中で武断派と文治派という文官と武官の対立があること。


 現状はコントロールできているが、コントロールしている理由が父と家臣達が男色···ホモセによる腐った絆によるもので、父親に何かあるか、痴情の縺れにより簡単に組織が瓦解するという爆弾を孕んでいた。


 二つ目が溺愛している甥大内晴持の存在が私を表舞台に出すことができない原因となっている。


 後継者に既に指名されており、更に家格も私とほぼ同等。


 名門一条家の生まれや容姿端麗、才色兼備である彼は私が表に出れば家が割れる原因となる。


 三つ目が貴族の存在で今は良いのだが、貴族を支援するということはストッパーが居ないと無限に金を要求してくる存在であり、史実の大内家は貴族の支援者になった結果、国庫が傾き、それにより武断派が暴走して大内家が崩壊した。


 私が止められる権限を持っていれば今の大内を変えるという選択ができたが、一旦全てをリセットした方が私が動きやすいというのがある。


 その際になんとかして勘合貿易の利権を守る必要があり、大内崩れと呼ばれる反乱時に上手いこと勘合貿易で中華(明)に渡っているのがベストかもしれない。


 そして大内崩れで崩壊する大内水軍衆をどうしても繋ぎ止める必要がある。


 勘合貿易と博多さえ守れれば勢力の回復は容易い。


 そしてそれには錬金術を使うのが手っ取り早く済む。


 まずは自身の手足となる人材を集めましょうか。








 和尚より文字を覚えた私は、和尚に頼み、大釜を用意してもらい、錬金術の実験を繰り返す。


 私が授かった錬金術は化学とは違い、賢者の石を作ったり、金を生み出したりするような世の理を捻じ曲げて物質を生み出したり、変異させたりするもので、まずは紙を作れるように試してみた。


 大釜に錬金術の紋様を描き、水を張る。


 材料は寺に大量に生えている竹で、徳源に頼んで竹を切ってもらい、それを鍋に入る大きさに更に切り分け、水の中に入れて大きな木べらで混ぜると竹がみるみる溶けていき、液体となってしまった。


 その液体を桶で掬い、四角形の木箱に流し込み、天日干しにする。


 すると薄黄色の紙が出来上がった。


 それを見ていた和尚と徳源は腰を抜かして驚いていたが、私もしっかり錬金術が使えて安心した。


 レシピは頭の中に入っているため、色々と試してみるつもりだ。


 出来上がった紙に細い筆で文字と絵を描いていく。


「安慈様、何をお書きに?」


「徳源や和尚にもわかるように農書を書き出そうと思ってな」


「農書ですか」


「色々な作物を育てているが、それらの育て方を纏めた物があった方が良いだろ?」


「確かにあると便利ですな」


 まだ私は体が上手く動かせないので、農書の他にそれらの食材を使ったレシピ本も書いていく。


 で、夜になれば錬金術を試す。


 寝る前に願った植物の種や苗や種芋が届くのを利用し、その種を更に錬金術で品種の改良を試みている。


 実るのが遅い果実は早く育ち、実る様に。


 手間のかかる野菜は手間が少なくなるように。


 病気や温度に弱い作物は強くなるように···改良を施し、それを寺領内に植えて様子を観察するというのが日課になっていた。









 夏になると夏野菜と呼ばれる作物が畑いっぱいに実り、それを見た檀家の人々は和尚が奇妙な物を作っている見なしていた。


 私は和尚に言って近くの村の村長を呼んでもらうことにした。


 この時代の村長の権限は強く、持ち回りの場合もあったが、よほど能力が劣ってない限りは武家と同じく継承であり、目の前の四十代の男も村長としての人徳を持ち合わせていると和尚が前に話していたため、話してみたいと常々思っていた。


「和尚、呼ばれましたが何用でしょう?」


「いやな、行商人が様々な植物の種を貰ってな。うちの若いのが育てて料理をしてみたんだが、行商と伝のある座五郎(村長の名前)に意見を聞きとうてな」


「なるほど」


 俺と徳源が料理を運び、村長の前に出す。


「見慣れない小童だな」


「春頃に和尚に拾われた安慈と言います。お見知りおきを」


「おお、うちの倅よりも若いのにしっかりしてるな」


「この料理は安慈が考案した物になる。食べてみてくれ」


「おう、じゃぁいただくぜ」


 私が作ったのは饅頭で、餡を味噌と夏野菜を細かく刻んだ物を炒め、饅頭に詰めて蒸した物と、きゅうりの塩漬け、那須の味噌炒め、ピーマン、ナス、きゅうりをトマトソースで煮込んだ物、トマトと豆腐の和え物を出した。


 赤色の料理(トマト料理)に村長は驚いていたが、美味い美味いと料理を食べていた。


「いやぁ美味かった。飯(雑穀米)とも合いそうだな」


「座五郎、もし良ければ育て方を教えるから、来年村で作っては見ないか?」


「良いのか和尚。飯の種だろ」


「良い良い、ただ安慈の言う通りにやってもらいたい」


「この小坊主のか?」


「···口の固いお主には話すが安慈···いや安慈様は御屋形様の嫡男でな。分け合ってうちの寺に預けられている」


「な!」


「安慈改め亀童丸と申します。安慈のままで結構ですよ村長」


「な? え?」


「身分を隠してやりたいことが幾つかありましてね。売れる作物を作ってもらいたいのですよ」


「売れる作物?」


「ええ、まぁこれは後ほどで、今は米が取れなくても生きていける作物を教えるので来年から色々と作物を作ってもらいたいのです」


「米の代わりは良いが、肝心の米が取れなければ領主様の税が払えなくなるが」


「ええ、神仏様より貰いしよく実り、味の良い米を貰えましたので、来年からその種籾を渡しましょう。そしたら村の若いのを借りて色々とやりたいのですがよろしいかな」


「村を預かる者として簡単に頷く事はできねーが、和尚の田んぼの実りを見て決めさせてもらう」


「それで結構です」


 村長と約束をするのだった。

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