第四章

『…』

『人ん家で何しているコソ泥』

 『こ、コソ泥ではありません!』

私は何とか誤解を解こうと必死に、アピールした。

 『だろうな。ここには金目当てのものはねー。腐って古びた本だけだ』

 『どうしてそんなことおっしゃるのですか』

 『あ?』

 『あ、いえ。だって、その…』

私は何を言えばいいか、もごもごと口を動かしていると

 『俺の作品しかねーからだよ』

 『え』

 『どの作品も素晴らしい。これで食っていけば、俺も生活ができる。楽に暮らせる。ただ現実はそう甘くない。自分の多くの作品を世に送り出し、いつか有名になれると思えば、その逆だ』

 『そんなことないと思います!』

 『は?』

 『そんなことないと思います。まだその時が来ていないだけで、決してあきらめることはないと思います。いつか必ず奇跡が起こります。願いが叶います。だから、』

 『お前、何言って…って、おまえそれ!』

 『え?』

 『あ、いや…』

(あぶねー。「妖狐がいる」なんて言っても、人間には見えないよな。いっても、馬鹿にされるだけだ。)

ジー

『な、なんだ』

『あ、いえ。なんか反応がおかしかったので、もしかしてこの妖狐が見えているのかなと…』

『んなわけねーだろ!誰が妖狐なん、て、って、え?』

『?』

『え、あ、え、お前見えるのかそいつが?』

『そいつ?』

『そいつだよ、そいつ!妖狐だよ!』

『あ、コンコンですか?はい見えます!』

『コンコン?』

『はい。狐だからコンコン』

『いや、お前それ妖。妖に勝手に名前つけるんじゃねー』

『なんでですか。可愛いじゃないですか。コンコン』

『どういう名付け方してんだ全く!いいから元居た場所に返してこい!』

『いやです!懐いてるんですよこの子!』

『んなわけあるか!いいから返してこい!返さなかったら、俺が力ずくでも返す。』

『いやだったら、いやですってば。あ、ちょっと引っ張らないで!』

『しつけー!お前が話さないからだろうが!』

『キューン』

『え?』

お互い顔も見合わせた。

『い、今鳴きました?』

『俺が鳴くわけねーだろ』

『いえ、そうではなく…』

『キューン』

『…』

『ま、まさかこいつが鳴いたわけじゃねーよな?めったに鳴かねーぜ。っていうかそもそも、仲間の間でしかこいつは鳴かん』

『そ、そうなんですか。いやでもそれしか…』

可愛い妖は二人を見て、

『キューン』

『な、鳴いた!鳴いた!聞きました?この子鳴きましたよ!私たちを仲間と思っているんですよ!』

『あー、もううるせー!騒ぐんじゃねー!』

『じゃ、改めてよろしくねコンコン!』

『キューン!』

『はー。おい、用事が終わったらとっとと帰れ!もう俺にあったし、どういった人物か分かっただろ。とっとと失せろ!』

『…あの、しばらくここにいていいですか?帰り方わかんなくて』

『は?一人できたんじゃねーのかよ』

『途中まではそうだったんですけど、村に着いてからは、案内してもらって…』

『村?ここに村なんてねーぞ。いるのは俺と、この家だけだ。買い物行くには歩きで一時間のところにある街だな。もちろん電車もバスもねーし、ここは山の麓。俺みたいな体力でなきゃ、おめーみたいな小娘が来れるわけねーな』

『あ!だからコソ泥って』

『山に住んでいるきたねーちび妖怪かと思ったんだよ。初めて見るが、この山ン中では何が起きてもおかしくねーからな』

『きたねーちび妖怪ですって~!』

『お、きたねーは余計だったか。悪いなちび』

『ちびじゃないですし、汚くもありません!』

『ま、何がどうあれ、お前は狐に化かされたんだな。』

『そんなわけないです!町にある小さな古書店のおばあさんが、『小さな村の麓に孫がいるって…』

『麓って調べてみろ。山のすその部分。山麓っていう意味だぞ。あと俺に、ばばあはいねー。とっくの昔に死んじまった。それに街に小さな古書店があるのは初耳だな。世界が発展している中で、そんな小さな古びた書店があるか?江戸時代じゃあるまいし』

『(え、江戸時代…)そ、そうだったんですか。じゃあ、私が会ったおばあさんはいったい…』

『その狐はどこで拾った?』

『おばあさんのとこですけど』

『おまえ、最初から狐に化かされていたんだな。古書店が実在していたとして、お前が平気で妖狐がいることをばあさんに伝え、驚かないわけねーからな』

『おばあさんにも見えていたかもしれないじゃないですか。そしたら、驚かないでしょ。』

『お前が見えている時点で、お前が言う「ばあさん」が多少驚いてもいいけどな』

(言われてみれば確かに。妖が見えているのが当たり前かのようにふるまっていたような…)

『ま、考えたって仕方ねー。とりあえず今日は止まっていけ。夜の道はあぶねーからな』

『いいんですか!案外女性にやさしいんですね』

『いや、お前が妖の餌になり、食った後、俺のにおいをたどり、後で俺も食われるのはごめんだからな』

『あはは…結局自分のためですか。って、だとしたら、この家も危ないじゃないですか。ここにいたら、一発バクですよ!』

『ここは安全だ。心配するな。よっぽどのことがない限り、妖は近づかねーよ。ほら、ここでは何の実もなってないだろ?妖は嗅覚がいいんだ。特にみかんなどといった柑橘類にはな』

『それ、ほんとですか?』

『さあな。けど、何も起きていないのはほんとだぜ。現に俺が生きているんだからな。』

『…わかりました。では、お言葉に甘えて泊めさせていただきます。ただしかし!』

『?』

『掃除させてください!』

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