Let’s ラグランジュ

VENUS

第1話

「はぁ、疲れた…」


 深夜のコンビニからヨレヨレのスーツで出て来た男が口ずさむ。


「人生のリセットボタン・・・売ってないかなぁ」


 ・・・売ってても、俺には買うだけの金がないかぁ。



「竹藪に1億円でも落ちてないかなぁ」


 ・・・近所には竹藪が無いかぁ。



「異世界転生して裕福な家に生まれたいなぁ」


 ・・・裕福なら異世界の必要も無いかぁ



「ヤバいな。38時間勤務で頭がオカシナ方向に回ってるな。早く帰って寝よう…」


 カップ麺とドリンクと売れ残りのオニギリを持って信号待ちをしていると、


 ―――ブブブブッ ブブブブッ


 マナーモードにしていた携帯がメールを着信した。


 頼むから、会社からではありませんように・・・

 今から会社に戻れと言われても、流石に今日は帰らせて貰おう。

 もしも、会社からだったら気が付かなかった事にしておこう・・・


 ポケットから携帯を取り出して確認すると


「ん? 誰からだ? 文字化けしてるな・・・本文は―――」


  『 後ろへジャンプ 』


 なんのイタズラだ?

 23時を過ぎて、迷惑メール送って来るような知り合いは居ないはずだが……。

 携帯から信号機へ目線を上げると、目の前4mにトラックいた! トラックは一直線に俺へ向かって来る。


 ……あぁ、これはダメなヤツだ。


 その瞬間、脳内にアドレナリンだかホルマリンだか知らないが何かがドバドバ放出され時間感覚が伸びる!

 俺は運転席に目をやると・・・携帯を見ていやがる。

 ……よそ見運転かよ。オイ!こっちを見ろ! だが今更気付いた所でトラックがこの距離で止まれる訳が無い。

 あと3m・・・あっ!さっきのメール。後ろへジャンプだ!

 ……トラックとの相対速度を考えると絶対に助からないだろう。でも他に手が無い。

 俺は思いっきり、後方へジャンプした。

 トラックまであと2m。空中でトラックの方へ手と足を伸ばして衝撃を吸収させる。

 ……手足は折れても命は助かるかもしれない。

 だが俺の手足は俺の意思通りには動いてくれない。俺の意識が早過ぎて手足の動きが追い付いていない。

 あと1m・・・あぁ。


 ガシャーン!!!




 俺は背中から地面に落ちた。


「痛ッ、、ト、トラックは?……え!? ここどこ!?」


 周りを見渡すがトラックは・・・いない。信号機も無い。コンビニも無い。

 暗すぎて何も見えない。辛うじてこの場所が建物の中だと解かる程度の明るさだ。

 携帯のライトで地面と照らすと、石畳になっている。


 そう言えば、トラックに引かれた? ブツかった割に携帯の画面が壊れていない。それ所か手足の骨も折れていない。

 あのトラックは夢だったのだろうか?

 いや、夢というなら、この場所の方が夢だろう。


「俺って死んだのか?」


 ・・・死んだのに携帯が使えてるにはオカシイよなぁ。


 携帯の時計は10日23時28分。圏外で通信は出来ないようだが、たぶんコンビニを出た時間から数分しか経ってない。


 状況が全く吞み込めないが、まずは周りを調べて見る事にしよう。

 周りには苔が生えた白い壁、規則的に並べられた長椅子に祭壇のような場所、そして大きな本、奥の壁にはステンドグラスから月光?が差し込む、後ろの壁には高い位置に窓があるが扉は見えない。


 ステンドグラスや窓は高過ぎて届かないだろうな。まずは手の届く本から見てみるか。


 前方にある段を上り本を手に取り中を読む。触った感じは紙では無い。羊皮紙だろうか?

 ページをめくるが、何語かわからない。魔法のような挿絵が付いている。そして最後のページを開くと本が発光し跡形もなく消えた。


 直後、ゲームのレベルアップ時のようなファンファーレが脳内で再生された。

 ファンファーレとともに脳内に語りかけてくる。


 ーーーーーーーーーーーー

 ステータスを獲得

 転移魔法【A】を獲得

 鑑定魔法【E】を獲得

 称号【来訪者】を獲得

 ーーーーーーーーーーーー



 おおおおおおっ!?!? なになになにっ!?

 めっちゃ異世界っぽいこと起きてる!?


 慌てながらも笑みが止まらない。昔読んだ小説やアニメの出来事が俺に起きたって事だ。

 転移魔法と・・・鑑定!?と聞こえたな。試してみるか!!


 だが、やはり最初に試すのは異世界を確定させる為に、ステータス!と叫んでみることにしよう。

 俺は異世界に転生した時の為に色々な物語から勉強のだ。ステータスと言ってステータスが表示されたら、そこは異世界だと!


「いくぞ。  ステータス!!」


 ・・・・・・?

 何も起こらない・・・ どういう事だ? やっぱり異世界じゃ無いのか?


 だが、さっきのファンファーレとアナウンスは地球では考えられない。

 やはり、ここは異世界だろう。


 うーーん。わからないな。ステータスはまた後で考えよう。

 俺は右手を見つめながら呟いた。


「鑑定」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 火色ひいろ 一一かずひと 男 36歳 Lv.1


 体力 17/34 魔力 8/9


 筋力 33 知力 24 素早さ 21


 能力 転移魔法【A】 鑑定魔法【E】


 称号 【来訪者】【社畜の魂】


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 鑑定でステータスが見るのか。

 そして不名誉な称号まで付いてる。


「まぁ、異世界確定って事で良いかぁ」


 次は転移を試すか。転移ってどうするんだ?鑑定と同じように口に出して言えば良いのか?

 じゃあ、自宅を思い出して・・・


「転移!!」



 何も起こらない・・・

 どういう事だ? やっぱり異世界じゃ無いのか?


 いや、ステータスは見れたんだ。ここは異世界だろう。


 うーーん。理由がわからないな。


 あっ! 転移魔法を鑑定で見たら何か解かるかもしれない。


「鑑定!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 転移魔法【A】

 

 任意の場所へ転移する。必要魔力10


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 って、マジか!

 俺の最大魔力値って9だっただろ? どうすれば良いんだよ!


 俺が知ってる物語の中なら、修行してレベルを上げたら魔力も上がったけど・・・

 それを試すしかないのか?


 フゥー。


 試いたくても、最初にこの建物のドアを探す所から始めないとな。

 壁を鑑定したら、隠し扉が有っても解かるだろう。 ・・・たぶん。


「鑑定」


    「鑑定」


        「鑑定」


            「鑑定」


                「鑑定」


                    「鑑定」


                        「鑑定」





 ドサッ




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