魔神の物語〈楽〉(タイトルは変わるかもしれません)
八雲琥珀
第1話 魔神
私は魔神だ。私は魔族達に崇拝される。私は人間から、魔王よりも恐れられる恐怖の象徴であり、災厄だ。そんな私が、今何をしているかと言うと、それは.....観察(ストーカー)だ。
「あ〜〜〜、今日も可愛いなぁ。」
私は今、人の子に夢中になっている。元々は殺すつもりでいた者だ。あれは、何年前のことだったか.....。
過去・魔界・神殿
とある日、若い魔族が神殿にやってきて、言ったことがはじまりだった。
「魔神様にお願いがございます。」
「この私に願いを頼むか....肝が据わっているな。聴くだけ聴いてやろう。.....だが、その前に名乗るのが先だ。」
「申し訳ございません、ありがとうございます。この度、新たな魔王に選ばれました、ベルゼと申します。」
「あぁ、お前が彼奴の後釜か、中々良い魔力を持っているな。......願いを言ってみろ。」
「はい。....勇者を殺して頂きたく思います。」
「.....は?ゆ、勇者?それはお主の役目であろう。何故私が殺さねばならんのだ。」
「それは.....因果、魔王は勇者に殺される。この因果を消す為でございます。」
「私の思い違いでなければ、歴代の魔王には勇者を蹴散らした者も居たはずだが.....あぁ、そう言えば、最期は勇者に討ち取られたか。」
「いつの時代も、魔王の最期は勇者に討ち取られて終わっています。そのせいで現在、魔王になった者はハズレくじを引いた様な扱いを受けます。可哀想に、この者はやりたくもない魔王を真っ当し....討ち取られると。」
「まぁ、因果を消すには神か、神に近しい者が関わらないと変わらないからなぁ。...だが、勇者は女神が関わる領域だからな。俺とて、危険が伴わない訳じゃない。時間がかかるだろう....それでも問題ないか?」
「ありがとうございます。どれ程時間が掛かろうと、この願いが叶うのでしたら問題ありません。お願い致します、私は魔王城へ戻ります。失礼致しました。」
若い魔族は帰っていった。
「ふむ。久しぶりに人間界を巡るか。姉上達に伝言は必要ないであろうし、さっさと用事を済まそう。」
そうして、私は魔界から人間界に繋がる洞窟へ向かった。
〜過去・人間界・魔界入り口付近〜
長い洞窟の終わりが近づくと、私は暖かい日の光に包まれながら、そのまま外へ出た。
「....さて、まずは教皇の住まう国へ行くか。あの国のことだ、すでに勇者を探しているだろう。
透明化した私はそのまま聖教国へと続く道の上空を飛んで行った。
〜過去・サンクテーラ聖教国〜
聖教国内に侵入して中央へ進み、神殿に入ると声が聞こえてきた。
「聞いたか?あの話は。」
「聞いた、聞いた。新たな魔王が誕生し勇者様が誕生したんだ。勇者様が誕生した時、我が国は莫大な利益を得られる。」
警備の者の話を聞き流しながら中へ中へ侵入して行く。
「大陸屈指の警備体制でも、我々魔神にとってはザルだな。一部の信徒の慌てようを見て分かるぞ。勇者が誕生したと神託があったのだろう。.....さて、聖教国の幹部達はどこかな。...あそこか。」
厳重に警備されている門の中へ、すり抜けて侵入した。
〜過去・聖教国円卓の場〜
侵入した部屋の中では聖教国の幹部達が集まって話をしていた。
「聖下、ついに神託が降りたのですね。」
「そうだ。新たな魔王の誕生と勇者の誕生がな。.....だが、勇者が生まれる国は王国のほうだ。」
「なんですと!あの国は聖教を拒み、伝統ばかり気にしている。勇者の存在は隠すでしょう。」
「だが、我々でなければ勇者を見つける事は出来ないだろうな。」
「聖下?それは、どうしてです?勇者は幼なくとも力が溢れ出し、簡単に見つかってしまうでしょう。」
「あの国は女性蔑視が基本だろう?新たな勇者は女勇者、あの国では女は家を守る者だと思われている。見つからんだろう。」
「なんと、女勇者ですか。歴代の勇者は男しか居なかった....確かにあの国では気付かれないですね。伝統ばかり気にしている国ですから。」
「その事よりも帝国の話だ。国境付近の睨み合いが続いているからな。」
私はその後の話を聞き流しながら聖教国を去っていった。
「....聖王国も大概だと思うがな、存在しない神を信仰している時点で同じだろうに....まぁ、知らないからだろうが。それにしても勇者は王国に生まれたのか?大体聖教国か周辺の属国で誕生するはずだが?....天界で何か起こったのか?まぁ、俺には関係ないし王国へ向かうか。さらば聖王国、警備を強化した方が良いぞ。目指す目標は男尊女卑の権化とも言える王国へ。どうせ俺の瞳ならすぐに勇者を見つけられるだろう。」
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