Re:地球ぶっ壊し屋
一話 かくしごと
夕焼けが窓から顔を出す、静まり返った放課後の化学準備室。
年季の入った木製の机の上一面に、一センチばかりの埃が降りつもっていた。
「ほんと、だらしないわね。五十嵐先生は」
その埃を指ですくうと、髪の毛や鉛筆の小さな削りかすを巻き込み、薄汚い綿菓子ができてしまった。
「きたない。大人として有り得ないわ」
漆黒の上にささやかな光沢を纏う高級スーツが、鳥の糞のような極めて卑劣な汚れで汚染された。
「あーあ。やっちゃたね西園。それ、五十嵐さんが五ヶ月分の給料はたいて買ったって言ってたのに」
部屋の角、全裸の人体模型が鎮座するその横の外開きの扉から
ニヤニヤ笑いながら丸眼鏡をかけ直し、目を光らせている様は、ゴシップを見つけ出した新聞記者を見ている気分だった。
「バカに違いは判らないでしょ。つか竹田、なんで人のこと覗き見してんの?普通にキモイんだけど」
「べっ、別に覗き見してた訳じゃないし。警告が鳴ったから見に来たんだよ。前にも言っただろ、化学準備室に誰か入って来たら基地に通知が行くってさ」
「だったらなんでそこから頭だけ出してるのよ」
「ほら、見つからない為にはこっそりと慎重に覗くだろ?」
「そうじゃなくて、あんた学校中の監視カメラの映像を見れるでしょ。ここにだって有るわよね?なんで基地の中で確認せずに、見つかるリスクを冒してまでわざわざ覗きに来るのよ」
優は、急所を突かれて痛みをこらえるかの様に、瞼を力いっぱいに閉じる。
「いやぁ、それはその…」
「竹田、あんたまたなんか怪しいこと企んでるんじゃないでしょうね!」
美由希は手に残っていた埃をはたきながら、扉の方へと進行する。
「ち、違うよ!」
バトル漫画の主人公みたいに血走った目を見て、優はとっさにドアノブを手前に引く。
「あんた前にもそう言っといて、校庭でガ〇ダム動かし始めて大変な目にあったんだから!」
「あれは、エネルギー不足が原因で機体が倒れちゃっただけで僕のせいじゃない!」
美由希がドアノブを手にかけ、体重を使いながら全力で引っ張る。
それに対して優は体を持っていかれないように、壁で手を支えながら必死に耐えていた。
「観念しろ竹田!あんたみたいなヒョロガリが私の力に勝てるわけないでしょ!」
「お前どんだけ力強いんだ!ゴリラかよ!」
「誰が、ゴリラよ!」
美由希が一気に力を籠めドアノブを引くと、優が尻を突き出した情けない体勢で滑り出てきた。
足でつついても反応がない。どうやら衝撃で気絶してしまったらしい。
「まったく、情けないわね」
あいた扉の先には、コンピューターやその配線が狭い部屋に押し込められいるのが見える。
木造の化学準備室の隣なだけに、金属だらけのSFの世界のような部屋はとても異質に感じた。
「久しぶりに覗くけど、前に見た時よりも散らかってるわね」
部屋は長方形になっており、手前側にモニターや機械たちが並んでいる。
モニターには、学校中の監視カメラの映像が映っていた。
「監視カメラの映像…。なによ、しっかり見てたんじゃない」
隣にあるもう一方のモニターには、人体模型の視点から見た化学準備室の映像が映されている。
「自前の監視カメラまで…!やっぱり、これは何かあるわね」
美由希は固唾をのみ、部屋の奥の作業場へと足を進める。
作業場と言っても、机が四個入るかどうかの狭さなのだが…。
「ここも少し埃くさいわね」
作業場にはホログラムで映された小さな機械の設計図がポツンと置いてあった。
「何かかいてあるわね」
空中に光を出している土台に文字が刻まれている。
「ローマ字?『TIKYUBUKKOWASIKI』?」
美由希はため息をつき、頭の中で舌打ちをした。
一瞬でも英語だと思った自分を殴りたい。
「地球ぶっ壊し機。またふざけたもの作りやがって!」
美由希は面倒事が起きる予感に、軽く頭痛がした。
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