Re:地球ぶっ壊し屋

琴吹ツカサ

旧:地球ぶっ壊し屋

 俺の休日は過ごし方は、とにかく家から出ない。


 家でゴロゴロしながら、SNSを見て無駄な時間を消化する。


 俺の人生の中でごく少ない、生きていて楽しいと感じる時間だ。


 今日もいつもの動画共有アプリで、特に興味もない釣り系の動画を見る。


 動画を再生する前に5秒程の広告が流れる。


「地球ぶっ壊し屋!!強力なレザー光線を地球にぶっ放して、憎き地球をぶっ壊そう!!お仕事依頼、バイト・パートのお問い合わせはこちらの番号から!!」


 思考が一瞬止まる。


 若いセールスマンみたいな声で、奇々怪界な言葉を次々と言い放つ謎の広告。


 いったい何処からツッコめばいいのやら。


 地球ぶっ壊し屋。つまり、地球をぶっ壊すことを商売にしているという事で合っているのか?


 なんだ、地球ぶっ壊す商売って。ふざけてんのか?


 あとなんだよ、バイト・パートって。コンビニの求人じゃあるまいし。


 さては企業のおもしろ広告かと思ったが、しっかり地球ぶっ壊し屋のホームページに繋がるURLが貼られている。


 ホームページに飛ぶと、虹色の背景に爆弾とレーザー銃らしきイラストが『地球ぶっ壊し屋』の文字を挟んで左右に貼られていた。


 大学生が酒の勢いで作ったとしか思えない、幼稚でふざけたホームページ。


 少し下にスクロールすると、でかでかと虹色に光る文字で『地球をぶっ壊して欲しい方はこちらの番号まで!!↓』と綴られていた。


 画面がチカチカして目が痛い。


 さらに下にスクロールしようとしたが、これ以上は何もないらしい。


 地球ぶっ壊し屋。結局なにがしたいのか、肝心な知りたい情報が何一つない。


 少し苛立ってきた。この広告を作った奴を一発ぶん殴りたい。


 いや、殴らないと気が済まない。


 無駄な時間は好きだが、それはプラマイゼロの状態が好きなのであって、決してマイナスが好きな訳ではない。


 数少ない休日の日に、こんな屈辱的で陰湿な嫌がらせを受けるなんて。


 日々の肉体労働で溜まりに溜まったストレス。

 すぐに使い切って、一向にたまらない貯金。


 詐欺被害に遭い、倒産寸前の建設会社。


 風呂場で飼っている、アホズラの金魚。



 どん底の人生。


 怒りはどんどん膨れ上がり、果てには殺意が湧き始めた。


 もう人生は終わっているも同然の状態。

 人の一人や二人殺めてもいいだろう!


 手はいつのまにか地球ぶっ壊し屋の電話番号に電話をかけている。


「はーい。もしもし?お電話あざざーーーっす。地球ぶっ壊し屋でぇえやんす」


「おい、てめぇ!地球ぶっ壊し屋だかなんだか知らねぇけどよぉ!ふざけた広告作りやがって!!お前みたいなのが居るから俺みたいに真面目に頑張ってる奴が損をする社会になんだよ!!ボケが!!地球ぶっ壊す前に、お前をぶっ殺してやりゃ!!首洗って待ってろ!めんど臭ぇことさせやがって!このクソガキャ!!あと、声キッショ!!!金魚が喋ってんのかと思ったわクソが!!」


 キッチンから包丁を取ってボロボロの玄関を蹴り飛ばし、外に出た。


 ホームページに申し訳程度に書かれていた、事務所の住所を頼りに走る。ひたすら走る。


 街の人々が包丁を携えた俺を見て怯えながら、自分の事だけは殺さないでとばかりに道を開ける。


 俺の人生の中でごく少ない、生きていて楽しいと感じる時間。


 それが今、一つ増えた。

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