教えてよ、東雲さん!

雨宮 徹

教えてよ、東雲さん!

 まことはせっせと絵を描いていた。今日の課題は「人物画を描くこと」。ペアを組みお互いの顔を描くわけだが、これが意外と難しい。だから、美術の授業は嫌なんだ。



 真がペアを組んだのは天田あまだ玲央れおだ。天田は絵が上手い。いや、上手いどころではない。将来、画家になってもおかしくないレベルだ。真は天才の絵と凡才の絵を無意識のうちに比べてしまい嫌気がさしてしまった。





「今日はここまで。次の授業では風景画を描いてもらいます」



 やっと天田から解放される。別に天田が嫌いなわけではないが、美術の授業で一緒になるのはごめんだった。



 イスから立ち上がった時だった。天田が絵に何かを書いているのを見たのは。



「天田、どうした?」



「いや、自分が描いた絵だと分かるようにサインしてるんだ。サインするだけで、プロの気分も味わえるしね」



 なるほど。真は思った。天田がプロになったら、この絵は高値がつくだろうな、と。たぶん、天田にそんな考えはないだろうけれど。



「でも、それってサインと言えるのか? いたずら書きにしか見えないけど」



 真が目にしたのは「!O」という文字だった。



「いたずら書き? いや、立派なサインさ!」



「じゃあ、そのサインの意味を教えてくれよ」



「それはしたくないかな。自分だけの秘密にしたいというか。でも……東雲しののめさんにはバレるかもしれないけれど」



 よし、東雲に解いてもらおう。サインの秘密を。





「ふーん。面白いじゃない」



 事情を話して1分も経っていないのに、解けたのか。さすがクラス一のミステリーオタクだ。



「で、どういう意味なんだ?」



「真は『!』の名前、知ってるわよね?」



「バカにするなよ。びっくりマークとかエクスクラメーションマーク、あとは感嘆符ともいうな」



「そうね。でも、もう1つの名前があるの。『雨だれ』よ」



「へえー、そうなんだ。でも、それとサインは関係ないと思うけど」



「単体じゃダメよ。『O』と続けて読むのよ。『アマダレオ』。つまり、天田あまだ玲央れおってこと。ほら、あそこに天田がいるわ。『意味が分かった』って言いに行けば?」

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