第9話

「やっぱり無いや。流されたのかな?」

 ここは昨日魚人が現れた場所の辺りだ。ここに来るまでも新たに現れたりしないか海に注意しながら進んで来た。少しは何かしらの証拠がないか期待していたのだが、どうやらそれもなさそうだ。

 「シロ、昨日の死体が何処に行ったか分からない?」

 「キューン。」

 「海の中だもんね。分からないよね。流されていったんだろうな。」

 そう言いながら底に沈んでいるかもと思い、海に近づいてみる。

 「そう言えば昨日は海面に出る前に気づいてたよね?何で気づいたの?」

 「ワフン。」

 「気配?何それ?私には分かりそうにないな。もっと分かりやすい何かはないの?」

 シロがないと言わんばかりに首を横に振った。 

 「そっか。私にも判るような何かがあったら良いなと思ったんだけどね。」

 そのまま暫く何か落ちてないかと探して歩く。

 「うーん、どうしようか?流されているかも知れないし、もうちょっと探しに向こうまで行ってみよっか?」

 「ワン!」

 「諦めよう?何で?」

 「ワンワン。」

 「あー、そうか。もしアレが出てきたらその時に1体だけで出て来るとは限らないか。複数出て来たりもあり得るか。」

 1体だけでも対処できるかと言われるとできると自信を持って答える事はできない。それがもし何体も現れたりしたら?

 「考えただけで怖いね。けど、真言をきちんと使えるようになれば対処できるようになるかもしれないし、ちょっと練習してみるね。」

 「ワフウ。」

 「分かってるよ。ちょっとだけだよ。まずは前に魚人を倒したやつ。」

 『砂塵よ集まり槍と化せ』

 砂が集まり槍を形作る。

 「やった!できたできた!」

 朱音はさっそくできた槍を手に取ってみた。

 「うわ、結構重いな。漫画だとこれを自分で振り回して戦うんだけど私には無理だね。」

 「ワウン。」

 「無理に決まってるってそんな事言わないでよ。」

 「ええと、次は槍よ飛び行き敵を貫けだったけど……、敵、いないからどうしよう?」

 「ワン!」

 「そうか、的は無くても海に向かって撃てばいいか。だったら敵を貫けを変えて、それに次の真言も足しちゃえ。」

 『槍よ海へ飛び行き激しく飛び散れ』

 槍が凄い勢いで海へ飛び20メートル程の所で海に着水したと思うとそこで軽く1メートル程の水飛沫をあげた。

 「おお、できた。けどやっぱり威力はこの程度か。もっと激しく水飛沫が上がるかと思ったけどちょっとだったね。」

 ふと思う。威力を上げるにはどうしたら良いか?と。考えてみると槍の質量分の砂が飛び散ったとしても砂の量はしれている。しかも飛び散った時に効果があるのは体内に入った部分のみだろう。そのままで威力を上げようとしても上がるはずは無い。なら単純に

 「砂の量が増えれば威力も上がる?」

 思い付いたならやってみよう。今後役にたつ事があるかも知れない。槍より大きい物……。

 『砂塵よ集まり丸太のようになれ』

 砂が集まり太さ50センチ長さ2メートル程の棒状となった。

 「これはなかなか凄い事になるんじゃない?」

 『丸太よ海へ飛び行き激しく飛び散れ』

 丸太が凄い勢いで飛んだ。これはこれで凄い光景だ。それが20メートル程飛んだ所で着水と同時に

 ドオオオーン

 轟音と共に激しく水飛沫が上がる。その余波は凄まじく朱音の元にも砂混じりの海水が飛んで来た。

 「うぇ、ペッぺ。」

 それが口の中に入り、唾を吐き出す。予想よりも凄かった。音も凄かったし、威力も凄かった。

 「これは……ちょっと凄かったね。」

 「ワンワンワン!」

 「ちょっと、そんな怒らないでよ。私もあんな風になるとは思わなかったんだもん。」

 「ワン!」

 「あ、そうか、そうだね。あの音で人が来るかもしれないね。とりあえず帰ろうか。帰ったら直ぐにお風呂で砂を流さないとね。砂まみれだ。」

 「ワン。」

 「駄目。あんたも入るのよ。」

 「クゥン。」

 「そんな海水に砂まみれで家の中に入れないよ?」

 「キューン。」

 「そんな可愛い声を出しても駄目だよ。これは決定事項だ。大丈夫。優しくしてあげるから。」

 「ワン!」

 「嘘だなんて酷いね。私が嘘をついた事ある?」

 「ワフン!」

 「うん、まあ、あるよね。それは認める。けどね、お風呂入らないなら入るまであんたは家の外に居なさいよ。」

 「キューウ」

 「それは嫌でしょ?諦めてお風呂に入るの。さ、帰りましょ。」

 シロと朱音は周りを警戒しつつ、家路へと急ぐのだった。

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