034 天乃さんと初めてのお出かけ
ようやくやってきた、土曜日の朝。
クロスで丁寧に磨き上げ、きらきらと陽を弾く機体を眺めながら、イスカは満足そうに頷いた。
飛行機も車と同じく、ときどき洗う必要がある。本当はブラシと洗剤を使い、たっぷり時間をかけて汚れを落としていくのだが、今日は予定もあるため水拭きする程度に留めておいた。
前回のクリーニングからそこまで時間が経っていないので、このくらいでも充分綺麗になる。メンテナンスを終えた吾妻も手伝ってくれたおかげで、セキレイが来る前に済んだのはありがたかった。
出かける前に愛機を綺麗にしたくなるのは、一体どういう訳だろう。学校に行くときはそんな気にならないのだが。
「――下地くんっ」
不意に後ろから声がして、とんとん、と肩を叩かれた。
振り返ると――ぐに、と頰がつぶされる。
白い人差し指がつん、と伸びていた。
やんちゃな笑顔がぱあっと咲く。
「……おはよう、天乃さん」
「おはよう、下地くん」
――なんだか綺麗になっているわね!
そう言いながら、セキレイは隣に来て機体を眺める。
お出かけだし、軽く洗ったんだ。イスカは答えた。
「なるほど、だからぴかぴかなのね。……あ、もしかして私のためにだったり――?」
「――いや、気分というか……まあ。そうでもあるかも」
「……ふふ。ありがと。特別便ね」
嬉しそうに微笑むセキレイ。
あらためて見れば、今日の彼女は見慣れた制服姿ではなかった。
いつもと同じ、雲のように白い髪。
だが、晴れ空のような水色のブラウスがそれとうまく対比して、ふわりと軽い印象を与えていた。
袖口から覗く華奢な手首は、それ自体も装飾品のように上半身を彩る。
歩くことを想定してか、ボトムは薄めのデニムが引き締めていた。濃いめの紺色も相まって、上下で合わせた際の安定感をさりげなく増している。
シンプルで主張し過ぎず、それでいてどこか華やか。
私服姿のセキレイは、なかなかに魅力的だった。
「――どうかしたの?」
はっと意識を戻すと、青い瞳が訝しげに見つめている。
なんでもないと言いながら、イスカはすーっと視線を外した。
んー? と首をかしげるセキレイ。
一瞬の後、その顔にいたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「……もしかして。見とれちゃった?」
「――――ンンッ!」
図星ね、と決めつけられて、大あわてで否定するイスカ。そんな様子を見たセキレイは珍しく、あははと笑う。
「――なんてね、冗談よ。似合うかしら」
「それはもちろん……というか今日の天乃さん、めっちゃからかってくるね!?」
「そう? テンションが高いからかもしれないわね、だって楽しみなんだもの」
少しだけ頬に朱を差しながら、セキレイは言った。
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