004 天乃さんと切れかけた縁
「――ごめんなさい、大丈夫……んんっ」
セキレイは目をごしごし擦ってから、イスカの手を取った。
シートベルトは既に外していたようで、するりと操縦席から這い出る。そのまま二人は翼を降りて、未だに煙を噴き出している機体から離れた。
入れ替わるようにやってきた消防車が泡状の消火剤を噴射し始める。
運ばれてきた担架をやんわりと断ってから、セキレイはぺたり、と座り込んだ。
「……あの。助けてくれてありがとう、下地くん」
「……あぁうん、どういたしまして。無事でよかった」
「私、これで人生終わりなのかと思っていたから、キャノピィ開けられて驚いて……ごめんなさい、なんだかじっと見てしまって。嫌だったわよね」
――――正直なところ、嫌ではなかった。
むしろこちらが綺麗な瞳に見とれていた、なんてとても言えないが。
「……どうして嫌だと……」
「それはほら、下地くんは人と関わるのを避けているみたいだから」
さすが、関わりが無いクラスメイトのこともよく見ている。こういう細かなところが、人気者たる所以なのだろう。
イスカはまぁ、その通りだよと頷いた。
「そうよね、やっぱり。……うーむ、それじゃあどうしようかしら……」
「どうする、って何が?」
「お礼よ、助けてもらったから。……でも下地くん、私の連絡先とかもらっても困るでしょう? だいたいみんな欲しがるんだけど、下地くんはそういうものに興味無さそうよね。他になにかしてあげられること……」
「あぁいいよそういうのは。天乃さんも面倒くさいだろうし」
「面倒くさくないわ。受けた恩は返すって決めているもの」
セキレイは真剣な顔で言い切る。
――困った。イスカは、さっさと帰りたかった。
助けたのは、セキレイだったからではない。
目の前で人が死ぬのを無視できなかった、ただそれだけだ。助かったのならもうそれでいいし、これ以上関係を深めたくはない。
――自分にとって大事な人を、増やしたくない。
「……なら、これまでと同じように接してほしいかな。近所のクラスメイト、それだけの関係で。そのほうが僕も助かるからさ」
「え? だけど……」
「じゃあ、僕はこれで」
自分にしては珍しく、後ろ髪を引かれる気がした。
その気持ちに気づかないふりをして、イスカはつっけんどんに別れを告げる。
「……わかったわ。助けてくれたこと、忘れないから」
少し硬くなったセキレイの返事を背にして、今度こそ家に向かって歩き出し――。
「……待て。お前は関係者だろう、イスカ」
イスカはまたも引き止められた。
……振り返ってみれば。
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