第10話
そうだ。誰かに相談するにしても、一応中を確認してからだろう。
開けないでいい、とは言われているが『中から音がしてるんですけど』なんて、子供の使いではないのだ。みっともない。
鍵は今、持っていた。すぐにでも開けられる。
「浩二か? その、生きてるのか?」
呼びかけてみる。シンプルで無機質なガタガタいう物音以外に答えはない。
昭雄はなんだか恥ずかしくなった。
そんなわけがないではないか。
いや、でも音がしている時は霊安室の戸を開けるな、なんて指示も充分〝そんなわけがない〟。
そうだった! 浩二は自分の手荷物の中からあの紙の人形を持ってきた。
引き人形、だったか。
ものは試しだ。入れてみるか。
昭雄は屈んで、ヒトガタを引き戸の隙間から差し込もうとした。
頭上でガチャカチャ、南京錠が鳴る冷たい音がする。
……昭雄はすっ、と途中まで入れた紙人形を引っ張り出した。
おかしい。大真面目にこんなことをするなんて、自分はちょっとおかしくなっている。普通ではない。
昭雄は薄汚れた紙をビリビリに破り紙片をポケットに突っ込んだ。くだらない。
職務を遂行するだけだ。これでいいのだ。
昭雄は迷わず南京錠を外し、勢いよく戸を開けた。
「開け
なんとも緊張感の無い声が響いた。
引っ張られる。部屋の中に引き摺り込まれる。異様だった。ストレッチャーも、簡易祭壇もない。何も無い。
真っ暗。ただ闇に引き摺り込まれる。
中は光の存在出来ない空間だった。昭雄は必死でドアと壁の縁を掴んでいた。少しでも力を抜いたら引き摺り込まれる。
「誰か……!」
声を上げようとしたその時、昭雄は誰かに後ろから押された。
振り向く間もなかった。昭雄は暗黒の中に落ちていった。
「やっせなあ」
ゲタゲタゲタゲタッ!
南国の鳥を想起させる啼き声がこだました。
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