ダブルスタンダード

ピンク侍

第1話 そんなことより

 この文字の向こうには人がいる。だから掲示板のメッセージを読むし、書くのだ。相手はどこのだれだか、歳はいくつなのか、男か女かさえ分からない。

 いくらメッセージに女性らしく書いてあっても、プロフィールに女マークがあっても、確かどうかは分からない。文字だけでは確かめようがない。しょせんは匿名。

 そんなことより、会話が問題だ。そのときの気分で楽しめる内容か、テンポか、言い回しか。

 写真もやり取りできるが、それはネットのどこかで拾ってきたものかもしれない。疑えばキリがないし、疑うなら楽しめない。かといって、まったく信じ込むものでもない、自分の中のおぼろげな信用と疑いの渦巻く世界でメッセージをやり取りする、それ自体が醍醐味なのだ。

 

 誰かを釣るために、どんなメッセージを掲示板に投稿しようか。そう、メッセージは釣りのエサなのだ。エサの種類によって釣れる人種がちがってくる。もちろん、どうにでも解釈できる内容で、どんな人が釣れるか反応をみる楽しみもある。

 イヤな相手ならブロックすればいい。なんならアプリごとアンインストールして、またインストールするのを繰り返すだけ。そんなことを自分に言い聞かせて気持ちを安心させて、一つひとつの自分の言葉が腑に落ちるか確かめたり、ときには自らの大胆な発言を他人が読むことにドキドキしながら会話を進めるのだ。

 今夜はどんな人が反応をくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る