第6話 お仕事に行こう①
『監視区域【妖精の森】からモンスター出現の予言あり。モンスター出現の予言あり。グリーンタウンの住民は直ちに避難してください』
NEOお手製、大量のドローンがそう鳴きながら俺の頭上を飛んでいる。夕焼け空が見えなくなるほどの数はまるで、稲に群がろうとするイナゴの集団みたいだ。
周りを見渡せばそこは人間一人いない田舎町。名前の通り、そこら中に花や木々が生い茂っている。家々の壁にも植物が張り付いている。そして、ぱっと見娯楽施設は何もない。
久々に外に出れたと思ったらこんな場所か。ま、誰もいないんだったら暴れ放題荒らし放題。俺は八百屋の店先に置かれたリンゴに手を伸ばす。
「こら、バベル」
後ろにいたカガミに止められた。
よしよし、喧嘩する口実ができた。
俺は嫌味ったらしい顔を作って振り返る。
「んだよ。俺ァな、わざわざ知らない町の知らない奴らを助けるためにここに来てやったんだぞ。ちったあお礼があったっていいだろうがよ」
「オヤツは任務が終わった後にしなよ、集中しないと負けちゃうよ。後で僕がリンゴ代払うからさ」
「リンゴを今食べるのを止めるのかよ。盗むことじゃなくて」
途端にやる気がなくなって、俺は盗もうと伸ばしていた手を引っ込め、仲間のもとに向かう。「あ、待って待って」と俺の後ろからカガミが小走りで付いてくる。
良く分かんない奴だなぁ。というかキモい。
今回のモンスター退治のお供は、俺とナイフルと、俺に何回も張り手をかましてきやがった野郎フジミ。そして犬だ。
「ねーねー、あけてあけて」
「駄目だ。カガミの許可がいる」
犬はフジミの持つ犬用バッグに入れられている。横長で円柱のバッグの大きさは、中に入っているのは小型犬だと推測できるぐらい。奇妙なことにそれには物凄い量のバッチが付いていた。なんだ? なんらかの、魔術的拘束?
「しっかし、バカみてぇな量のドローン飛ばしてんのにまだ見つからねぇのかよ、討伐対象は」
俺がドローン群を睨みながらそう言うと、カガミがタブレット端末を見る。
背中から中身を見てみると、上下に画面が分かれていた。上は町の地図、下はトークアプリの
「う~ん。
「誰だよ」
「アマビエちゃんの予言も結構外れたりすること多いし……。今回は中々酷いモンスターって予言だけど、もしかして外れかな」
「誰だよ」
「カガミ。もしかしたらモンスターは冷たかったり小さかったりするのかもしれない」フジミがポツリと言う。
「そっか、その可能性もあるね。じゃあこうなったらアレだね、みんなで地上から探すしかないね」
「かくれんぼ?」とナイフルがはしゃいだ声を出す。
「うん、かくれんぼだ。よし、ナイフルとバベルは一緒になって探して。僕は兄さんと。何かあったらこのトランシーバーで連絡してね」
カガミは俺にトランシーバーを渡す。
「兄さん、バッグ下ろして。その子にも探してもらおうよ」
「分かった」
フジミは犬の入ったバッグを地面に置いた。
すると、バッグの中から白い犬が出てくる。
犬種は分からない。しいて言うならばマメシバのようなシルエットだ。けれどその体を間近で見てみると、犬の毛質とは似ても似つかない、まるで粘土のようにのっぺらとしていた。
犬は死んだ魚のような目で周りを見渡すと、ハッハッハッと息を荒げながら地面に転がり腹を見せた。
「ありゃ? どうしたの?」
カガミが首をかしげる。
「前金を寄越せということだ」
フジミが代弁し、バックから犬用ジャーキーと書かれた袋を取り出した。
「ナイフルがジャーキーあげたい!」
「いいよ。兄さん渡してあげて」
フジミが袋を手渡すと、しらたき女男はそれをひっくり返し中に入っていたジャーキー全部を地面に落としやがった。
「あ~」と、俺以外が気力のない声を上げる。俺? 俺はやると予測してたから別に驚かん。
対して、御馳走の山を鼻先に突き付けられた犬は細長いしっぽをすんごいスピードで振り……、――――ベロン、と一舐めで全て食べてしまった。
それから犬は短い四つ足をしきりに動かし、猛スピードであらぬ方向へ走り去っていった。
「よし、みんなで探そっか」
犬の爆走を見ても動じることなく、カガミが笑顔でそう言い切る。
ああ了解。アイツもフリークスね。
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