聖女召喚に巻き込まれた私、スライムテイマーとして聖女様に仕えます!

九龍クロン

1話、聖女召喚に巻き込まれた


雨の中、信号待ち。

赤い光が、地面に反射しているのを見た。


「え、赤じゃん! みづらーい」


隣に自転車がとまる。

中学生か、高校生か。キチンと雨合羽を着ている。

私が止まっているのを見て信号を判断したのだろうか。少し危なっかしいな。


雨は、止みそうにない。


信号が青に変わる。

私が動いたのを見てなのか、隣の子も動き出したのをちらりと見た。


その一瞬、前を見ていれば、あるいは。




​─────プツン、と、なにかが終わる音がした。


ああ、トラックに撥ねられたのか。


血が、流れているのがわかる。


冷たい。冷たくて…… 熱い。


光が、赤い地面を照らしているのが見えた。







​「​────す​──」


「し───か───」


意識が浮上していく。

音が聞こえる。

声かな。声がきこえる。


目をあける…… 眩しい!


「なん…… ここは……?」


知らない天井だ…… いやこのネタは要らない。

知らない人に囲まれ、知らない部屋にいる。

豪華な部屋だ。広いし、綺麗。眩しい。


「目覚められたぞ! せ、成功か?」


「しかし、二人おるぞ」


「どちらが聖女様なのじゃ。どちらもという事はあるまい」


「す、ステータスを見てもらうしか……」


なにやらおじさまたちがうんうん唸ってる。……聖女? 私が? いや、違うか。


「うーん、なによ……」


隣で転がっていた少女も目覚めたようだ。

この声……聞いた事あるな。


「なによここ! どこよ! あ、あなた、信号待ちの!」


信号待ち…… ああ!

うっすらと、記憶が蘇ってくる。

目覚める前…… 信号待ち。隣に自転車が止まった。おぼえている。

そうか、この声、あの時の。


「なにここ? 私たちどうしたの?」


「わ、わからないけど、えっと、聖女がどうとか……」


「は? わかんないんだけど! ……そこのおじさん、ここはどこ!?」


女の子は、周りにいたおじさんの一人を指さした。怖いもの知らずか……?


「こ、ここはオリオン王国の王都、ペテルギウスにある聖教会でございます」


オリオン王国。ペテルギウス。聞いた事ないな…… いや、ペテルギウスもオリオンも知ってるけれど。


「私たちはなんでこんなところにいるのよ」


「我々が、迷える魂の中から聖女の資格のある者を召喚致しました。あなた方は、どの世界からおいででしょうか」


「日本よ!」


「であれば…… 異世界召喚、異世界転生、などがわかりやすいでしょうか。ステータスを見ていただき、聖女であると確認できましたら、我が国の威信にかけて身の安全を確約させていただきます」


「聖女じゃなかったらどうなるのよ」


「それは…… いままで、このような事はなかったもので……」


ひとまず、ステータスとやらを見るしかなさそう。

ステータス、ステータス……

心の中で念じると、目の前に半透明の板がでてきた。


「ステータスって、これね!」


女の子もステータスを出せたようだ。

私からは見えない。私のも他の人には見えないのだろう。


さて、なんて書いてあるか……



アマツカ・マオ

十八歳


ジョブ:テイマー

ギフト:〇〇の加護、〇〇の資格


・ステータス

STR(筋力) 6

CON(体力) 7

POW(精神力) 15

DEX(敏捷) 5

INT(知性) 16


・スキル

テイム(制限有)


・ユニークスキル

無制限テイム(スライムのみ)

能力コピー(スライムのみ)



うーん、ほとんど意味がわからない。

ステータスというのはわかる。数値化されるとちょっと、嫌なんだけど。

スキルはテイム。テイマーだからか。でも、制限がある。制限ってなんだろう。

ユニークスキルは…… スライム限定。

私、もしかしてスライムしかテイムできないテイマーなの?

……弱いのでは?


「私が聖女よ!」


ああ、女の子が聖女だったか。それはそうか。

聖女になれば、身の安全は保証される。

テイマーの私は……


「私はテイマーでした…… 多分、スライム限定の」


「……テイマーです、か。スライム限定……申し訳ございません、テイマーはこの世界の戦闘職では最弱、スライムもこの世界の魔物の中では最弱の種族でございまして……」


おじさんのうちの一人が説明してくれる。

そうよね…… これからどうすれば。


「スライムってどんなやつなの?」


「聖女様、スライムというのは、ぷにぷにで可愛い魔物でございます。魔物ですから、懐きはしませんが…… 」


「スライム、ここにもってこれるかしら!」


「は、ただ今!」


どうやら聖女様はスライムに興味があるらしい。

さて、最弱テイマーの私はこれからどうやって生きていくか…… 食堂とかで働けたりしないかな。最低でも食い扶持くらいは……


「スライム、おもちしました!」


おじさんの一人が、瓶につめられた何かを持ってきた。

これがスライムか。小さいけど、動き回っている、


「ふーん、面白いわね! あなた、マオさん、これテイムしなさい!」


え、名前教えたっけ……

それはおいといて、テイム、か。試させてくれるのはありがたい。


「では。えっと…… テイム! でいいのかな」


スライムに向かって術をかける、つもりで発声。

これが正しいかはわからない。


「……できたのかしら?」


「ええ、大人しくなっておりますので、テイムは出来ているかと」


おじさんが瓶をあけ、スライムを取り出す。

ぷにぷにで、黒いゴマのような目? がついている。

か、可愛いかもしれない。


「可愛いわね! 気に入ったわ!」


どうやら聖女様のお眼鏡に適ったようだ。


「この人は私と違って国には保護されないのよね?」


女の子がおじさんに問う。


「そうですね、最低限の金品は持たせますが、城からは出てもらう、という形になってしまうかと。何分、聖女様のための部屋も予算も、一人分でございますから」


うーん、世知辛い。召喚したんだから責任もって面倒みてほしいんだけど、言っても仕方ないだろうし……


「じゃ、決めたわ!」


女の子が、片手を腰に、片手で私を指さし、ビシッとポーズをとる。

な、なにか言われるのだろう。処刑? 召使い? で、できれば死にたくない……


「この人、私の専属テイマーにするわ! いろんなスライムをテイムしてもらって、私が買い取るの! ねえ、いいわよね!?」


「え、ええ、聖女様専用の庭もありますので問題ありません。聖女様のご命令とあらば」


あ、いいんだ。


「よ、よろしくお願いします……?」


「私はヒジリメマリア! よろしくね、マオさん!」


ヒジリメ……聖女、マリア。

なんとまぁ、ぴったりな名前……


ひとまず、仕事は決まったようだ。

よかった。ありがとう、聖女様……!

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