第47話 虚無の世界

 ♢

 激高した勇者が魔王に切りかかる。


「死ねぇぇぇ! 化け物ぉぉぉ!」


 剣帝の力で勇者の剣技は全て特異能力スキルになる。


「遅い!」


 神速の勇者の剣を、魔王は片手で受け止める。


「くそがぁぁ!」


 勇者は後ろへ飛んで距離を取る。


「俺が英雄で、俺が勇者で、俺が神なんだよぉぉぉ! 超級特異能力エキスパートスキル! 世界の終焉ワールドエンド!」


 全てを食らいつくす深淵の闇の斬撃が魔王に放たれる。


「お前を倒して復讐は終わりだ。 超級特異能力エキスパートスキル! 擬似連Repeat続予告opening!」


 勇者の闇の斬撃に対して魔王は虹色に光る斬撃を放つと、虹色の斬撃が闇の斬撃を丸ごと飲み込み、勇者は虹色の光に包まれた。


 ――――――――――


 あぐらをかきながら、動かなくなったライトを見つつ共和国の地酒を呷る。


「どんな気分なんだろうな、擬似連が終わらないっていうのは。俺ならいっそ殺してほしくなるな」


 空になったマイグラスに共和国の地酒を注ぐ。


「これで全部終わったんだな」


 なみなみ地酒を注いだグラスをグイっと飲み干す。


「まぁとりあえず酒だな。外も終わったようだし、帰ってまず祝勝会だな」


 俺がいるところにまで連邦軍の勝どきが聞こえてくる。


「ヨシ! これで復讐は終わった。これからは異世界ライフをまったりと堪能するか。連邦の盟主も適当にラミアにでもぶん投げて、各地を巡るのも悪くないな」


 立ち上がりこれからの異世界ライフの楽しみ方を考えていると、なんの混じり気もない純粋な闇の気配を感じ取った。


「冷や汗……? 俺が?」


 今まで感じた事の無い禍々しい闇の気配に、額から異世界にきて初めての冷や汗が流れる。

 俺が感じた純粋な闇の気配は、人型へと変化してライトの前に姿を現した。


 人型の闇には目も口もなく、実体のある影のようだが言葉を発した。


「神聖剣、女神のやつ余計な事をしおって」

「お前は一体……?」


 人型の闇は俺へと振り向く。


「我は邪神、神界の闇の穴の最下層、虚無の世界ニートランドの支配者。ジン・シュタイン・ベルフ、貴様も悪くはないがライトほどではない。貴様には悪いがライトは預かるぞ」


 邪神がライトに手をかざすと、ライトは闇に包まれて消えてしまった。


「俺の獲物をどこにやった? 邪神、神といえど許さんぞ」

虚無の世界ニートランドへ送ったのだ。完成度は九十パーセントだがもうよいだろう。追うなら追ってこい、この世界を見捨てるというならばな!」


 両手を上へと伸ばす邪神。


「何をする気だ?」

「もう人間界も、魔界も必要無い。全て滅び虚無ニートになるがよい」


 空から闇の魔物、闇の魔虫、闇に堕ちた天使の軍団が現れて連邦軍と戦闘を開始した。


「貴様がここを放置すれば、瞬く間に世界は闇一色に染め上がる。それでも良いなら神界の闇の穴の最下層、虚無の世界ニートランドまでくるのだな」


 そう言い残して邪帝は闇とともに姿を消した。


「まずは連絡か。お前たち聞こえるか? 戦闘中なら無理に話さなくていい。今、連邦軍を襲ってきているのは邪神の兵隊だ。こいつらは人間界と魔界をまとめて滅ぼすつもりらしい。お前たちだけで食い止められそうか?」


 すぐに答えたのはナタリーだ。


「――ん、こっちは、問題ない。杖、忘れずに、もってるし」

「杖は俺が言うまで忘れていたけどな。忘れっぽいのが中々治らない、困ったちび娘だ」

「――むぅ」


 次に答えたのはラミアだった。


「ジン様、遅れて申し訳ございません。エポナ嬢とミーシャ嬢たちの回復に手間取ってしまって……。こちらも戦力は回復し終えたので問題ございませんわ!」

「エポナ嬢とミーシャ嬢? なにがあったかは知らないが、仲良くなったようだな。ナタリー以外に嬢をつけるなんてな」

「ラ、ライバルとして認めただけですわ!」


 ラミアが照れているところでグレンが答える。


「こちらも問題ありません。強いて言うなら死にかけのホークとアスモの回収を、別部隊にお願いしたく存じ上げます」

「グレン、なにかいい事でもあったのか? ラミア以外に気を回すなんて」

「いえ、ただ本物の強者と相まみえましたので」


 最後に三帝騎士団、帝国近衛騎士団長が答える。


「こっちは大損害を被ってしまい、我々以外はまともに戦えません! 至急援軍をお願い致します!」

「ほう、まともな話し方もできたのか? 常にひょうきんな奴だと思っていたぞ」

「ジン様、俺にもやっと男ってのが分かったんですよ。すいません、これで通信終わります!」


 竜帝に加えてエンシェントドラゴンと戦った、連邦軍右後方の軍団は被害が一番大きかった。


「あっちに一番強いやつを当てるか。さぁてどんなもんか楽しみだ。3S! ベテランSummon召喚souil!」


 初めて使った3SベテラSummonン召喚soulは、俺が今まで倒した魔物、魔族を一日だけ転生前の全盛期の姿で召喚できる。


 数えきれない魔物たちが召喚され、最前列には魔界の盾と呼ばれたゴーレム衆、前魔王四天王、炎の魔神スルト、水の邪精霊ウンディーネ、疾風の王シルフィード、雷の化身サンダーバード、そして前魔王の姿も確認できる。


「久しぶりだと言いたいところだが時間がない、散らばって連邦軍を援護せよ! 前魔王は娘に懺悔の意味も込めてラミアのところへ行け!」

「仰せのままに」


 魔界最強だったものたちが戦場に赴く。


「あとは大丈夫そうだな。俺はこのまま神界へ行く、お前たちの力を信じているぞ」

「――ジン様、気を付けて、ね」

「ジン様! お帰りをお待ちしておりますわ」

「ジン様、ご武運を」


 俺はみんなの返事を聞きクククと静かに笑う。


「ああ、行ってくる。全てを終わらしにな」


 神聖剣、天地開闢ビッグバンの剣ブレイドで次元を切り裂き、天界にある闇の穴の最下層、虚無の世界ニートランドへ単身乗り込んだ。

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