第40話 中央の戦い

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 一番初めに聖王国軍と衝突したグレン率いる中央軍。

 激戦区となる中央だが最前線で戦っているジンが認めた戦士長、グレン・マーク・サーベインの特異能力、魔剣二刀流陰陽の型の前に聖王国軍は次々と消滅、次々とグレンの影となっていく。


「くっそぉ! 誰でもいい! あいつを止めろぉ!」


 聖王国の紋章が入った鎧を装備している師団長が叫ぶが、聖王国軍の兵士の戦意は上がる事はない。


「無理ですよ師団長! あの二刀流の男は共和国戦で中央を抑え続けた最強の兵士、龍頭龍尾ウロボロス! あんな化け物を相手にするぐらいなら撤退した方がいいです!」

「参謀のお前がそんなのでどうする! これ以上たった一人に好きにさせる訳にはいかんのだ! もういい、私が出る!」


 聖王国軍の師団長はスラリとしたサーベルを鞘から抜く。


「聖王国の剣技、とくと味わせてやる! とりゃあああ!」


 グレンは師団長の攻撃を半身で躱す。


「遅い」


 刀身が新月の様に黒い剣で師団長の首を跳ね飛ばすと、師団長の傷口から黒い瘴気が溢れ出し、体全体を瘴気が包むと影だけとなり、グレンの命令に忠実に従う影となった。


「師団長があんなにあっさり……。撤退! 撤退だぁ!」


 参謀が撤退を叫ぶとグレン達の前にいた聖王国軍が一斉に後退する。


 聖王国軍が引いていくと、剣と書かれた旗を地面に突き刺して立っている男が見えた。


「強者か。影、一斉攻撃」


 グレンは作り出した影たちに、剣の旗を突き刺している男に向かって攻撃命令をだすと、数千の影が意志を持っているかの様に動き出し、前方の男に襲いかかる。


「……」


 男は無言のまま鞘に納まっている刀の柄に手を伸ばす。


「……居合切り」


 居合切りと男が静かに発すると、数千の影は一瞬で両断されて消滅するが、男が動いた気配は一切なく、刀も鞘の中に納まっている。


「抜刀術か」

「……」


 男はただ黙って刀の柄に手をかけている。


「私の名はグレン・マーク・サーベイン。ジン様から戦士長の役目を仰せつかっている」


 グレンの名乗りに口を開いた男。


「……拙者は剣帝、御方により聖帝七騎士の一人に任命されている」

「剣帝と名乗るその力、見るのが楽しみだ」


 グレンは強者と対峙できた事に、いつになく心が躍っていた。

 さっきの剣帝の太刀筋はグレンですら見切る事が出来ず、グレンの影たちを一瞬で切り伏せた時でさえ剣帝は殺気を微塵も放ってはいなかった。

 さらに言うと、剣帝は特異能力スキルを使っていない。


「……」

「……」


 二刀を構えるグレンと刀の柄に手をかけている剣帝との間に静かな時間が流れる。

 攻め込もうとするグレンだが、結界の様に張り詰められた剣気を感じ取り、あと一歩踏み込めば剣帝の攻撃範囲に入る事が分かっているので動けない。


 対する剣帝は受けの姿勢に入っているので、その場から動こうとはしない。


特異能力スキルは使わないのか?」


 グレンは剣帝の剣気の結界を解こうと話しかけてみる。


「……拙者の放つ剣技、それ即ち特異能力スキル


 剣帝は常軌を逸した修練とたぐいまれなる剣の才により、全ての剣技を特異能力スキルにまで昇華していた。


 剣帝の言葉に嘘はないと感じたグレンは、この勝負は一瞬で決まると予感する。


「なるほど、では私は最高の特異能力スキルを使わせてもらおう」


 グレンは二刀の刀を重ねる。


超級特異能力エキスパートスキル、魔剣二刀流、陰陽の型、終式」


 刀身が雪の様に白い剣と刀身が黒い剣が重なり合い一つになる。


「天地和合」


 一つとなった二つの魔剣は黒い鞘に納まっている。

 グレンは剣の柄へと手を伸ばした。


「……抜刀術」

「ご名答」


 グレンも剣帝と同じく抜刀術の構えを取っていた。


 最高峰の剣士同士が抜刀術の構えを取り、両者一歩も動かない。

 傍から見ればおかしな光景だが、二人はこの間も激闘を繰り広げている。


 じりじりと動いているのか動いていないのか、分からないほど少しずつ剣帝が距離を詰めると、グレンも同じく傍目には分からないほど少しずつ下がる。


 二人はコンマの距離の詰め合いをしているのだ。


 この勝負、先に大きく動いた方が負けると二人は確信している。

 なら、勝つためには相手を先に動かすか、なにかしらの合図で二人が同時に動いて、相手より先に攻撃を当てるしかない。


 二人はなにかしらの合図があるまで、神経をすり減らす攻防を続けていると、けたたましい爆発音が響いてきた。


 その刹那、


「居合切り!」

「一閃!」


 同時に居合切りを放った二人。


 直後に血しぶきが舞い、


 グレンの剣を持っている腕が切り落とされる。


 落ちゆく剣をグレンは右手でつかみ取り、


 そのまま切り上げる。


 血しぶきが舞い、今度は剣帝が刀を持っていた方の腕が飛ぶ。


 剣帝が刀を拾いあげるより早く、


 グレンの剣は剣帝を真っ二つにした。


「……見事」

「骨を断たせて命絶つ、私にここまでさせたのはそなたが始めてだ」


 剣帝は地面へと伏した。


「そなたの戦いぶりを心に刻み、一生覚えていよう」


 最高峰の剣士同士の決戦を制したのは、グレン・マーク・サーベインだ。

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