第22話 仇敵
エポナの魔力で内線を繋いだ俺は各員に説教を始める。
「ラミア、戦力差が想定よりも高い時はすぐに上司である俺に相談しろ。部下の失態を覆すのが上司ってもんだからな」
「はい。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「動くなという命令に従った事は褒めてやるが、このタイミングで俺がこなかったら動いていただろ?」
ラミアは暫しの沈黙のあとに答える。
「申し訳ございません」
ラミアの返答に俺は小さくため息をつく。
「まぁいい。グレン、お前には状況が分かっていたと思うが?」
「ジン様、私は姫様に、作戦には口を出すなと言われておりましたので」
「仲間が死にかけてもそれか、堅物め。上が間違っていると思ったら指摘して、より良い様に改善するのも仕事の一つだ、覚えておけ」
「御意」
俺はグレンの返答に大きくため息をつく。
御意と言ってはいるが、グレンがラミアに意見するなんて、絶対にないのは分かっている。
「次、ナタリー。なぜあそこで爆裂魔法を使った? あのぐらいならもっとMPを節約してもできただろ?」
「――ん。杖、忘れた、それに、ラミアが、派手に、って言った、よ?」
「忘れ物……そうか、まだちび娘だから仕方ないな」
「むぅ」
ちび娘と言われ頬を膨らませるナタリー。
「エポナとミーシャは、戦士が出てきた時点で俺に報告するべきだったな。帝国騎士団もこんなに死なずに済んだはずだ」
「私は……その……ジン様の仇である戦士を、自分の手で倒したかったから……」
「申し訳ありません。三帝騎士団の方たちもお強いので、大丈夫だと判断してしまいました」
「単体、個人の強さぐらい分かる様にしろ」
「「ハッ!」」
ふう、と息をつきアルトを銀眼で睨む。
「ジン様! あのー、俺は?」
「ホークか、一体何をしてたんだ?」
「…………。ウガァァァ! 王国軍め! 王国軍め!」
ホークは悲しみを王国軍にぶつけるしかなかった。
「まぁしかしみんな良くやった。初めての戦は良い経験になっただろ。あとはアイツをぶっ殺して第一次人界大戦は終了だな」
俺はアルトへ向かって王者の風格を漂わせながら歩き出す。
後方で見送るエポナ達に今まで感じた事のない重圧より、頭を上げる事ができなかったであろう帝国魔装騎士団長が、やっと頭を上げて額に汗を流しながら問いかけていた。
「あのお方が皇帝陛下の盟友、ジン・シュタイン・ベルフ様ですね。なぜあのような力を持ちながら皇帝陛下の盟友となられたのですか? 滅ぼす事も、支配する事も簡単でしょうに」
帝国魔装騎士団長の問いに、エポナが笑顔で答える。
「盟友って格好いいよな。って言ってたと思うわ」
「格好いい……ですか。もはやあのお方のお考えは、人智などでは推し量れませんね」
―――――――――
二人が話し終えた頃、
「銀眼? がっはっはっは! そうかそうか、全てはお前のせいか!」
「えらく余裕だな、狂乱の戦士アルト・ウォルター」
「しかしお前が相手ではこれを使うしかないな。『超越者』になれるというこの魔剤をな!」
アルトは胸元から何かを取り出し口に含むと、アルトの体から蒸気の様な煙が噴き出し、辺りを煙で白く染める。
煙が晴れ、姿を現したのは、全身筋肉質の赤色の体を持つ、本物の鬼だった。
膨れ上がった筋肉は着用していた鎧を壊し、全身裸になるが筋肉による鎧が鬼を守っている。
「フシュゥゥゥ」
鬼は白い息を吐き出すと同時に、エポナ達の視界から姿を消す。
エポナ達が、鬼はどこに行ったのかと周りを見わたしていると、俺は少し後ろへ跳んだ。
俺が後ろへ跳んだ直後、先ほどまでいた場所に大きなクレーターの様なものができあがり、地面を殴る鬼の姿が現れる。
「脳筋もここまでいったら一つの
「フシュゥゥゥ」
高速で動いて繰り出した鬼のパンチを、俺はいとも簡単に避ける。
「大きくなってやる事がただのパンチとは、お前は本当に脳筋なんだな。自慢のそのご大層な斧は使わないのか? じゃあ俺が使ってやるよ」
「ンガッ!」
超高速でアルトの斧を掴む。
「あんまり重くないな。だがこの体は武器を振る才能が皆無だからな。昔ゲーセンでやったゲームみたいに、この斧でアイツを適当に叩いて潰すか」
「ンガガガッ!」
ゲーセンで最高スコアを出した俺にぬかりはない。
「スコア何点取ったらお前は死ぬんだろうな? 少しは楽しませろよ!」
言い終わると同時に、俺は鬼の足元へ瞬時に移動する。
「痛てっとか言ってくれると盛り上がるんだがな」
俺は
「まずは右腕、一点目だ」
鬼の右腕に
鬼の腹に大きな穴があいて血が噴き出す。
「ここで、か。2S!
俺は指で2Sとなぞり、絶対防御シールドを展開して、攻撃してきた敵の剣を止める。
「あーあ、やっぱり時間を止めなきゃ無理だよなぁ。脳筋がもう少し頑張ってく
れたらなぁ」
鬼の腹にあいた大きな穴に
人間でありながら
人外の力を持ち
世界から
光の勇者と呼ばれ
かつては友だと思っていた
最大の仇敵
ライト・エル・ブリアントが姿を現した。
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