第8話

私の部屋の鏡の前にジュリアを座らせた。

鏡の前に座るジュリアは少し不安そうな表情をしているが、反対にジュリアの後ろに写るテオちゃんとフィーはワクワクしたような表情を見せて、鏡の中のジュリアを見つめている。

ジュリアの髪は、スキンケアをするのに邪魔になるので、全て後ろでまとめた。

「では、始めるわよぉ~。」

私はジュリアの両肩に手を添えて顔を横に並べると、鏡越しで話しかけた。

獲物を狙う獰猛な動物に負けずとも劣らないくらいギラギラした目でジュリアを見ると若干ジュリアの顔がこわばった。

それでも私は気にせず先を進めていく。

「いい?まず、吹き出物が出来るのは、ストレスに食生活、環境の変化だったり色々あるの。ジュリアの場合は・・・色々当てはまりそうね。」

ジュリアの取り巻く環境を考えると吹き出物が出来やすい環境と言っても過言ではない。なるべくしてなっている、といった感じだ。


「でも、大丈夫。すぐにつるっつるのお肌になれるようにしてあげるわ!

まず吹き出物を防ぐために、油分をきちんととる必要があるの。吹き出物は油分が酸化して出来るから、その原因を防ぎます。それで使うのが、これ!」

ジャーン!!

私は前世であったテレビショッピングのように右手でボトルを持って、左手は添えるだけ。ジュリアや、その後ろに立って私達を見ているテオちゃんとフィーにも見えるように、クレンジングを見せた。


「このクレンザーを泡立てずにそのまま顔に塗っていくの。」

私はクレンジングのクリームを適量手に取り、ジュリアの顔に塗っていく。

「いい?こうやってやさーしく塗っていくのよ。特に頬の三角ゾーンとおでこのティーゾーン、油分が良く出る部分は塗りこんで念入りにしていくのよ。ここできちんと油分を取らないと水分が入っていかないからね。」

「はい。」

ジュリアは食い入るように鏡の中の自分を見つめた。

「はい!じゃあ、やさーしく顔を洗い流して。」

「はい。」

ジュリアは素直に、桶の中の水を手ですくい、顔を洗っている。

「いいわね~とってもお上手よぉ~。それぐらいやさーしく洗っていくの。」

洗い終えた頃を見計らって、私はふわふわのタオルを手渡す。

「これもまたやさーしくポンポンって抑えながら水気を取って。いい!決してこすってはだめよ!肌を傷つけてしまうから。」

「はい!」

私の熱量に比例するように、少しずつジュリアの目の色が変わり、一瞬たりとも見逃さない!というくらい鬼気迫る、眼差しを鏡に向けている。


「ほら、見て!肌の色がワントーン上がったと思わない?」

「・・・思います。」

ジュリアは不思議そうに左右首を振って自分の肌の状態を確認していく。

「そう、今までは皮脂が酸化して、汚れていたから黒く見えたの。ここまできちんと顔を綺麗にしないとまた吹き出物が出来る原因になるのよ。」

「はい。」


「はい!では、次に化粧水を塗っていきます。使うのは、これ!」

またしてもジャーンと皆に見えるように見せる。

「この化粧水はオイルフリーの物なの。吹き出物のお肌にオイルが入っているようなものは使ってはダメよ。お肌に油分を与える事になるから。

これをコットンにジャバジャバつけて、トントントンとお肌に塗っていくの。」

私はジュリアの肌に小刻みにコットンを当てていく。

「絶対手では塗ってダメよ。」

「え?ダメなんですか?」

「ダメよ!手はね、菌がついているでしょ?だから吹き出物が出来ている肌にしてはダメ!菌が顔に移って吹き出物が出来る原因になっちゃうでしょ~。だから絶対にコットンを使って。」

「今まで手でしていました。」

「そうでしょ?手の方が楽だったりするものね。でもコットンよ。はい、今度はジュリアがしてみて。」

私はコットンと化粧水のボトルを手渡す。

ジュリアはそれを恐る恐る受け取り、戸惑ったようにコットンに化粧水をつけて肌にあて叩いていく。

「いいわね~。特にここのティーゾーンには念入りに塗ってあげるのよぉ~。」

「はい。」


「はい、では次~。」

私は乳液を取り出して皆に見せる。

「お化粧水を塗って、今度はお肌に蓋をしないといけないから、これまたオイルが入っていない乳液を使うの。」

私は手に取って乳液を付けて手際よく塗っていく。

「はい!あとは、表面の余分な油分をティッシュでオフして終わりよぉ~。」

私はジュリアの顔半分ずつ折り曲げたティッシュを軽く当てていく。

「どう?」

「・・・まだ吹き出物はあるんですけど、それでも、今までよりお肌がきれいになりました。」

ジュリアは驚きに満ちた顔で何度も顔を上下左右に振って確認している。


「僕もそう思うよ!肌の色が明るくなったし、吹き出物も赤くて痛そうだったのが少しなくなったね!」

今まで黙ってじっと私達のやりとりを見つめていたテオちゃんが興奮した様子で私達の所まで来た。

フィーはというと、後ろでニコニコしながらうんうんと頷いている。

「これを毎日続けるのよぉ~。」

「はい!頑張ります!」

ジュリアはキラキラした目で私を見つめ返した。


なんて素直なのぉ~愛らしいわ!やっぱり私専属の侍女にして正解だわぁ~。

「じゅあ次は姉上の笑顔の練習だね!」


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