作家と私
K.night
第1話 東野圭吾と私
嫌いな作家は?と言われたら私は、東野圭吾さんと答える。読まず嫌いなわけではない。全部とは言わないがそれなりに読んでいる。読んだうえで嫌いだ。ただこれはネガティブキャンペーンなわけではない。もし興味があれば、私の話を聞いていただきたい。
小学生の夏休み、おじいちゃんの家に行くとよく図書館へ連れていかれた。幼い私と弟、やんちゃざかりな私たちを田舎で連れまわす方法の一つだったのだろう。私は私でおじいちゃんの家より遥かに涼しい図書館に行けるのを楽しみにしていた。いつものように図書館に着くと児童文学のところへ行こうとした。赤と白のカーペットのあるところで寝そべって本を読むのが好きだった。ところがその私の肩をおじいちゃんが止めて、「いい加減、こういうのも読みなさい」と連れていかれたのは何を思ってかミステリー小説の棚だった。小難しいタイトルばかり並んでいて、わけがわからなかった。でもここから借りなさいとおじいちゃんに言われて、ひらがなが多かったタイトルを選んだ。それが、東野圭吾さんの「どちらかが彼女を殺した」だ。
私はそれをおじいちゃんの暑い家で汗滲みながら読んだ。読めた。読めたのは面白かったからに他ならない。だがしかし!だがしかしだ!
「なんだこれ!!犯人がわからないじゃないか!!」
そう。この小説、当時としては珍しい犯人がわからない小説だったのだ。私はキレた。キレ散らかした。おじいちゃんとお母さんに(本を読むのはこの二人だった)この小説を読んで犯人を教えてくれと懇願したが、断られた。なんてことだ。アーサー・コナン・ドイルも江戸川乱歩も私にこんな仕打ちをしたことはなかった。このカタストロフィーは幼い私の心をギタギタにしていった。私は思った。東野圭吾なんて大嫌いだと。
それから時を経て、東野圭吾さんは大人気作家になり、私もミステリー小説をそれなりに読むようになっていたが、東野圭吾さんだけは避け続けていた。ところが同じ小説を読む友人に、東野圭吾さんのとある作品を熱烈に勧められたのだ。
それが東野圭吾さんの「白夜行」だった。彼女は熱烈にその小説を勧め、私に本人が買った小説を押し付けてきた。私は幼い頃のトラウマを話し、彼女に聞いた。
「これは、読んだらすっきりする?犯人わからなかったりしない?」
「しないよ!本当に感動するから!」
だから、私は読んだ。しっかり読んだ。そしてやっぱりキレた。
「犯人わからんやんか!!」
読んだ人にはわかると思うが、白夜行は物語の途中で起こる暴行の犯人がわからないのだ。貸してきた友人に「こら!」と言った後の反応もショックだった。
「それ、そんな気になる?」
気・に・な・る・よ!!気になるよ!!!私は調べた。当時まだインターネットーはADSLの時代で、ピープーピポパポと音を鳴らして調べた。考察やらを片っ端から。説得力のある文章も見つけたが、どうにも飲み込めない。検索を続けていると、「東野圭吾の本を全部読んでいるような人にはある程度察しが付くとは思う」という言葉に出会った。
ほう。そうか。そうなのか。だから読んだ。夏休みを使ってそれまでに出ている東野圭吾の作品をすべて読破した。そしてわかった。わからないことが!
結局私が欲しいのは公式の回答であって、考察ではないのだととてもよく分かった。夏休みの宿題の読書感想文はもちろん東野圭吾だ。
「東野圭吾の作品に膣の中で瓶を割るという拷問方法があったが、東野圭吾の作品はそれに近いどS作品である。」という文章から始まる私の恨みつらみがこもった読書感想文を。先生に「これは読書感想文ではない。書き直そうか。」と言われたが頑として聴かなかった。間違いなく、読書したうえでの感想なのだから。
そういうわけで、私はいまだに東野圭吾作品が苦手なのである。ただ、非常に残念なことに、私が初めて小説の中の主人公に恋をしたのも東野圭吾作品の加賀恭一郎なのだ。そして、ずっと向井理のイメージで恋していた加賀恭一郎を阿部寛が演じたことに絶句したのは懐かしい思い出。
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