宝石はどこへ?

追求者

館にて

 風が唸りを上げ、雷が遠くで光る中、探偵の高橋は依頼を受けて、ゴシック様式の古びた洋館の前に立っていた。彼の目の前に広がるのは、歴史を感じさせる重厚な木の扉と、曇りガラスの窓から漏れるぼんやりとした光だった。


 洋館の主、佐々木老婦人は、家族の中に盗人がいると疑っていた。彼女の声は、年月を経た壁に吸い込まれるように、静かでありながらも緊張を帯びていた。「私の宝石が次々と消えていくのです。どうか、真相を突き止めてください」と。


 高橋は、洋館の住人たちを一人ずつ観察し始めた。洋館の広大なホールは、嵐の外の騒音とは対照的に、沈黙に包まれていた。使用人の田中は、いつもの落ち着きを失い、手に持ったシルバートレイをわずかに震わせていた。彼の目は、時折、古い時計の方をチラリと見るが、その視線はすぐに逸らされた。彼の神経質な様子は、洋館の緊張感を一層高めていた。


 一方、庭師の伊藤は、外の荒れ狂う天気にも動じず、花壇の手入れに没頭していた。彼の無口さは、雨に濡れた土の香りと混じり合い、静かながらも力強い存在感を放っていた。伊藤の手は確実に、一つ一つの花に愛情を込めて世話をしており、彼の沈黙は言葉以上のものを語っていた。


 そして、佐々木の孫である小林は、祖母の顔を見つめていた。彼の眉間には、深いしわが刻まれ、不安が色濃く表れていた。祖母の次の一言が、彼の運命を左右するかのように、小林は祖母の口元に視線を固定していた。彼の手は、自然と祖母の手を握り、その温もりを求めていた。


 この三人の姿は、洋館の謎を深めるだけでなく、それぞれが抱える秘密や感情を暗示していた。探偵の高橋は、彼らの行動一つ一つから、事件の真相に近づいていくのだった。



 夜が更け、高橋は洋館の奥深くに隠された秘密の部屋を発見した。部屋は、まるで時間が止まったかのように静まり返っており、中央の台座には、盗まれたはずの宝石がきらめいていた。


 館の中の全員を部屋に呼び出し、高橋は問いただした。「これは一体どういうことですか?」小林は、微笑みながら答えた。


「私はただ、家族が本当に信頼しあっているか試したかっただけです。宝石は私が隠したのです」


 しかし、高橋は壁にかかっていた絵画の裏に隠された手紙を見つけた。それは田中と伊藤が書いたもので、「小林様へ、私たちはあなたの試練に気づきました。」と記されていた。


 高橋は真実を見抜いた。小林は宝石を隠すことで家族を試し、佐々木老婦人はそれを気付いていなかった。


「そうだったのですね...家族を信頼できないなど、私は年長者失格です...」佐々木老婦人は今にも泣き崩れそうだった。


「これから直せばいいのですよ。それに、御祖母様さまはその用心深さで成功されたではないですか。」


 小林は優しく祖母を抱く。


 盗人はいなかった。豪雨に包まれている洋館には愛と理解だけが満ちていたのだ。

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