第7話 東鷲宮の影
1月15日 - 前年12月より続く五六豪雪の中でも特に記録的な大雪。降雪は3月まで続いた。
東鷲宮の薄暗い通りでは、ラーメン屋のネオン看板が濁った空の中で遠くの星のようにちらついていた。雨が降り始め、アスファルトは滑らかな光沢を帯びた反射面と化していた。路地の迷路のどこかで、味噌スープの香りが田舎町の腐敗した空気と混ざり合っていた。
常に無精ひげを生やした埼玉県警のベテラン刑事、佐藤一也は控えめな薬局の入り口に寄りかかって立っていた。合法的な客もいれば、そうでない者もいる流れをじっと見つめていた。ラッシャー板前に似た情報屋の話によると、この場所は地元ヤクザの薬物取引の拠点であり、今夜それを確認するつもりだった。
通りの向こうには、高くそびえる櫓が街を見下ろしていた。過去の遺物であり、現在はヤクザによって見張り台として使われていた。彼らの領域を一望できるその場所には、容赦ない実行者たちが配置されており、彼らは自分たちの活動を守るためには殺すことも厭わない。
夜が更けるにつれ、一也は夜遅くまで営業しているラーメン屋に向かった。そこは、慰めを求めるサラリーマンや、秘密の会合を行う怪しい人物たちの溜まり場だった。小林旭に似たその店の主人、田中は一也の古い知り合いで、今夜、貴重な情報を共有することを約束していた。
店内は温かさと騒音の楽園だった。一也はカウンターの後ろで熱いスープを丼に注ぐ田中さんを見つけた。彼は一也にうなずき、奥の隠れたブースを示した。
席に着くと、田中は低い声で話し始めた。「一也さん、最近ここで見かけるヤクザの動きが一段と活発になっているんです。特に、薬の取引が増えていて、見張り台から常に誰かが見ているようです」
「その薬局も含まれているんだな?」一也は慎重に尋ねた。
田中は深くうなずいた。「ああ、そうだ。彼らはそこを拠点にしている。だが、今夜は特別な動きがあるかもしれない。櫓の上で、いつもより人数が多いんだ」
一也は田中に感謝の意を示し、店を後にした。外に出ると、雨は小降りになり、空気は冷たさを増していた。彼は櫓を見上げ、次の行動を考えた。
「この街をヤクザの手から解放するために、俺は何でもする」一也は心の中で誓った。
数時間後、大雪が降り積もる東鷲宮の街は、静寂に包まれていた。白銀の世界は一見すると平和そのものだったが、その裏側では新たな事件が動き出していた。
明智真一は、雪に覆われた街を歩きながら、最近の不穏な動きについて考えていた。この街では、未だに裏社会の影響力が強く、特に一色組の動きが活発化していた。
真一が訪れたのは、古びた喫茶店『カフェ・バブル』だった。そこでは最近、何人かの若者が失踪する事件が相次いでいた。失踪した若者たちは、皆一様に一色組と何らかの関わりがあると噂されていた。
「何か知っていることはないか?」真一は、カフェの店主に尋ねた。
店主は一瞬躊躇した後、静かに語り始めた。「実は、一色組の裏カジノで働いていた若者たちが、突然姿を消したんだ。あの場所には行かない方がいい」
真一はその情報を胸に刻み、次の行動を決めた。裏カジノの存在は以前から知っていたが、今回の事件との関連性を確認する必要があった。
真一は、変装して裏カジノに潜入することに決めた。大雪の夜、彼は闇に紛れてカジノの入り口に向かった。豪華な装飾と喧騒が漂うその場所では、一攫千金を夢見る者たちが集まっていた。
カジノの奥へ進むと、そこで待ち受けていたのは一色組の幹部、椎野桔平だった。彼は冷ややかな目で真一を見つめ、言葉を発した。「ここに何の用だ?」
「ちょっとした遊び心でね」真一は冷静に返したが、内心は緊張していた。桔平の動きを監視しながら、真一は失踪した若者たちの行方を探る手がかりを探した。
カジノの裏手にある秘密の部屋で、真一は驚愕の光景を目にした。そこには、失踪した若者たちが監禁されていたのだ。彼らは一色組の新たな計画のために利用されていた。
「君たちを救い出す」
真一は決意を込めて囁き、若者たちを解放する方法を模索した。しかし、その瞬間、背後から銃口が突きつけられた。
「動くな」
桔平の冷たい声が響いた。真一は振り向くことなく、ゆっくりと両手を上げた。
桔平は真一を外へ連れ出し、雪が深々と降り積もる中で対峙した。「お前の正体は知っている、明智真一。ここで終わりだ」
真一は冷静さを保ちつつ、桔平に対峙した。「この街の平和を守るために、俺は負けられない。」
激しい雪の中、二人は凍てつく闘志を燃やし、戦いの幕が上がった。雪が降りしきる中での決闘は、まさに命を懸けた一戦だった。激闘の末、真一は桔平を倒し、若者たちを無事に救い出すことに成功した。しかし、一色組の陰謀はまだ終わっていなかった。彼らの背後には、さらに大きな黒幕が存在することを知った真一は、新たな戦いに備える決意を固めた。雪が止み、東鷲宮の街に再び静寂が訪れた。だが、その静けさの裏には、未だに消えない闇が潜んでいた。真一の戦いは続く。
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