「料理の約束」

中に入れば、より一層の寒さが肌に伝わる。

部屋の中は冷気で満たされた、棚が沢山あるだけの部屋だ。

棚だけと言っても、棚にはそこそこの食料が詰まっている。

魔牛の肉と、魔鳥の肉、マンドラゴラの根に……と

僕と彼が一年くらい食べていける分は、残っていた。


「いろいろあるんですねぇ……よいしょっと」

「はい、様々な食料があって、それで……って、そのまま置いて大丈夫ですか?」

「ん~、まぁこれだけ冷えてれば、大丈夫かと思われますよ」


血塗れの顔をこちらに向け、にっこりと微笑む。

その微笑みはとても柔らかで、美しい。

だが、血塗れという狂気と、全裸という官能が、

同時に襲ってきて、どうしたらいいかわからない。


「あ、あの……そ、そろそろ布を……」

「あぁそうですね、刺激強すぎました?」


彼女がいたずらっぽく笑い、体を強調してくる。

僕は顔を真っ赤にして、どうにかして目線を外す。


「あら?うふふ、貴方を食べようとした人なのに、

女性として見てくれているなんて……」

「そ、そりゃ、それを見せられたら……」

「うぶですねぇ?もっと見ていいのにぃ?」


彼女はそれでも、僕に対してアピールしてくるものだから、

どうにかして話題を変えようと、この周りを見て……ある事を思い付いた。


「あ、あのっ!りょ、料理ってしないんですか!?」


僕が咄嗟に放った一言は、彼女を硬直させる。

そして、少しびっくりしたような顔をした後、僕に向けて、優しく話しかけてきた。


「まぁ、多少はしますよ?火を通したりとか、だけですけど」


自身の髪をくるくると、指で回しながら、少し自信が無さげに答える。

先ほども聖剣で解体した後、生のまま食べていたことから、気にはなっていたのだ。


「えっと……その、ぼ、僕を食べないって、

約束してくれるのであれば……その、じ、人肉を使った料理

作りましょうか……?」

 

彼女はまた、驚いた表情をする。

自信がない僕から出てくる言葉とは、思っていなかったようだ。

僕だって、こんな提案咄嗟に出たのがびっくりだし、今でも驚いている。

でも、彼女に食べられないようにするには、これくらいしないと……。


「料理、出来るんです?カルマンテさん」

「は、はいっ、ど、独学でちょっとやっていたくらいですが……」


彼女は僕の言葉を聞いて、ふぅと息を吐く、

吐いた息は白い煙となり、飛んで行った。


「なら、作ってみてください。これ使っていいので、美味しくなかったら……」


彼女は、僕へと近づき、僕の耳元で暖かくも冷たい言葉を吐いた。


「貴方を、食べちゃいますから♡」


背筋がまた、ゾッとする。

何度やられても慣れない、心臓を掴まれたように、全身が凍える。

耳元から離れ、彼女は両手を肘へと合わせ、ぶるると震えた。


「流石に、寒い……ですね。お風呂とかありますか?」

「あ、えっと、一緒に……じゃなくて!案内だけしますっ!」

「ふふ、ありがとうございます」


そう言って、僕たちは保管室を出る。

彼女はにまにまと笑い、僕はとんでもない事を約束してしまったと、後悔しながら。



(人間なんて……使ったことないよぉ)


風呂の前の廊下で、小さく座りながら、料理について考える。

部屋からは水の滴る音が聞こえてくる、勿論覗くつもりもないし、度胸もない。


(えっと、そうだなぁ)


僕はメモ帳を取り出し、どうやって料理するか、メモを含めながら考えていく。


(生じゃなければいいって事は、焼けば……)


焼けばとりあえず生よりは、旨くなるなるはず、

だが……それだけで満足してくれるだろうか?

彼女は異世界で、元々殺人鬼をしていて、

尚且つ同じように食べていた経験がありそうだ。

だから、焼くなんてやったことあるだろう。


(焼く以外……蒸す?いや、スモーク?)


思いつく限りの事を考える。

蒸して何にするのだ?他のとあえてもいいが、素材の味が薄れそうだ。

スモークでは時間がかかる、煙も出て敵に位置がばれてしまうかも。

では他に何があるのだろうか……?


「う、うぅん……」


メモ帳に思いついたことを、片っ端から書いていく。

だが、どう頑張っても見つからない。

もっと他の調理方法はないのだろうか……?


「うぅん……ん~~……」

「…私は、焼いたもの好きですよ?」


うぅんと頭を抱えていると、横から声が聞こえてきた。

そちらを見れば、いつの間に出て来ていたのだろうか?

同じように座り込み、にっこりと微笑む彼女、

そう、少し水っけがあり、その柔肌に通っていく水が……。


「……う、うわぁあぁあ!!」


恥ずかしさに、メモ帳で顔を隠しながら、後ろへと後ずさる。


「えぇ、何でも好きです。

ですが、少し料理が苦手なので、あまりおいしくなく……」

「た、試したんですか?メモに書いた…料理法」


彼女は、こくりと頷く、ここまで貪食だとは思わなかった、食とは怖いものだ。


「な、なら最初は焼き……ステーキとか、い、いかがでしょうか?」


彼女の体を見ない様に立ち上がり、問いかける。彼女はにっこりと笑って頷き。


「はい!最初は、それくらいからの方がいいですから♡」

「は、ははは……」


かくして僕は、人肉を使ったステーキを作る羽目になったのだ。



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