第2話 砂糖と塩は相まみえない。
ここで、恋愛のメカニズムを医学的視点から見て見ましょうか?
例えば、相手の事がいいな〜と思ったり、意識していなくても身体が火照ったりする事があると思います。
それは脳内でPEAと呼ばれる神経伝達化学物質が分泌されるからです。
恋愛についてのプロセスを研究していると言う、アメリカの大学教授が言っています。
このPEAと言うのは車で言えばガソリン――つまり、PEAが分泌されない相手に対しては恋に発展しないのです。
そして、PEAは人体に存在している、ナチュラルな脳内麻薬だそうです。PEAが増加すると、刺激が伝わりやすくなり、興奮状態が増加されたりします。
だからなんだと言われれば身も蓋もありませんが。
◆◇◆◇◆◇
「この度は当探偵事務所をお選び頂き、誠にありがとうございます」
「とんでもありません。太宰さんはとても優秀な探偵さんだと噂を耳にして、即断させて頂きました」
噂?
浮気調査の探偵界隈なんて、そんなふざけた界隈があるのでしょうか?
依頼人である佐藤敏夫さんは、日中勤務の会社員、現在結婚4年目で3人も――いや失礼致しました……3人の子宝に恵まれて、理想的な家族を築いていました。
調査対象である奥様と一緒に、積極的に子育てに参加。夫婦仲も良好でした。
しかし、佐藤敏夫さんはある日洗濯かごの中からホテルの名前が書いてあるライターを発見しました。
『ホテルロサンゼルちゅ♡』
どこからどう読んでも、ビジネスホテルの名前ではない事に動揺し、問いただそうと思ったそうですが、子供たちが無邪気に遊んでいる中、グッと堪えて見なかった事――たまたま紛れこんだに違いないと思う事にしたのです。
その後、様子を見ていましたが、頻繁にスマホをチェックする、服の趣味が変わったなど、砂糖と塩――いや、失礼……佐藤敏夫様から見たら奥様の言動が気になり始めたのです。
材料はこれだけです。夜間や休日の奥様の外出もないとの事でした。
もちろん、最近は夜の生活もご無沙汰になったとの事でした。
これに関しては、3人もいるんだから、無計画なのはこれ以上……と奥様は思ったのかも知れませんね。あくまで私の私心です。
「お話しはだいたい把握致しました。ところで素朴な疑問なんですが、もちろんお子さんは日中、奥様が見ていらっしゃるのですか?」
「はい。お互いの実家も地方ですので、妻が一人で見ています」
「と、なると不貞行為をされているのは日中――佐藤様が外出をしている時と言う事になりますね」
「は、はい」
「子育てに追われている中で、密会の時間がとれるのでしょうか?」
受けた依頼を全て鵜呑みにして、対応する訳ではありません。当事者であると正常な思考が出来なくなる場合もあります。
だから、失礼ながら時には反論めいた質問を返す事もあります。
「いや、例えば子供たちを一時保育に預けてとか……色々考えてしまいまして。はっきり第三者に否定されれば自分自身も落ち着くと考えまして……」
なるほど。
一理ありますね。
でも、要は信頼関係をお金で買おうと言う訳ですね。夫婦の信頼関係はライター一つで崩れる物でしょうか――申し訳ありません。度を過ぎた私心でした。
「奥様はおタバコは?」
「もちろん吸いません――私が知る限りは……」
そんな事も疑心暗鬼になっているのですね。
「わかりました。それでは明日から調査を開始致します。今回基本的には尾行調査をメインとして、奥様のSNSとホテルロサンゼルス――」
「ニューヨーク♡じゃなかったでしたっけ?」
「失礼致しました、ですがロサンゼルちゅ♡では?」
「え? あ、そうでしたね。あ、太宰さんの声はピカちゅ♡に似ていますね……すみません」
「いいえ。お気になさらずに」
確かに最初に間違えたのは私ですので、大サービスで♡マークをつけさせて頂きました。
とにかく、無駄なやりとりをしてしまいました。
「そのホテルも調べてみます」
「よろしくお願い致します。私もまさかとは何度も思いましたが、どうしても最後にはライターが気になってしまうのです」
「現物はありますか?」
「はい。お持ちしました。あと、事前にお知らせ頂いた、妻の交友リスト、SNSのアカウント、私と妻のタイムスケジュールの様な物もお持ちしました」
今回のポイントは――
①多忙な奥様に不貞行為に費やす時間があるのか?
②なぜラブホテルのライターを持っていたのか?
③頻繁にチェックをしているSNS
この3点ですね。
無駄に調査を長くして、料金を水増し請求する悪徳業者とは違いますから、サクッと調査して安心してもらいましょう。
私が、こんな事を考えると言う事は今回のケースはシロであると、予想しているのでしょう。
だが、わかりません。
人間ですから。
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