春の向日葵

師走 先負

春の向日葵

私達のためのシックザール

彼と5本の薔薇

「向日葵は彼氏とかいるの?」

「いないし、いたこともないかな。そういう事無縁だったんだよね。」

 高校3年生になったが今日も退屈な日々を送っている。毎日友達と他愛もない話をして特に何もせず一日が終わる。いつもそうだ。

「えー、嘘でしょ!小野さんめっちゃ可愛いし告白されまくりだったでしょ!」

「え...そんな事ないよ。ほら、私暗いし。」

 クラスのカーストの上の方の人(所謂ギャル)が突然話しかけてきた。急に友達では無い人に喋りかけられると誰だって驚く。この人は苦手だ。誰彼構わず一方的にしゃべり、時には猥談なんかを平気な顔で話してくる。でも、それがクラス間では何故か面白いという認知をされていて。果たして何が面白いのか。

「確かに!小野さん暗いよね。直した方が人生楽しいよ!」

 余計なお世話だとか思いつつ。そうだねと小さく相槌を打つ。

「うわ。もう授業始まっちゃうじゃん。じゃあまた後でね。」

「あっ。私もじゃあ行くね。」

 もう来ないでくれなんて思いながらうんと相槌を打ち、自分も授業の準備をする。はあ...あの人も友達ぐらいおしとやかなら良かったのに。

 

 授業が始まったが自分はずっとぼーっとしていた。正直言ってこれぐらいなら授業は聞いていなくてもわかる。というか他の人のレベルが低いのではないかと最近思い始めている。この前なんて日本は資本主義か民主主義どっちなんて話をしている人すらいた。最初はこの高校、頭の良い人がいっぱい来るとばかり思っていたが現実はそんなことないらしい。あー暇だ。そう窓の方を見やると隣の席の男の子と目が合った。確か彼は青木蓮だったっけ。ちょっと気まずい。たまたまとはいえ目が合った。どうすればいいのかな?考えをめぐらせていると、彼が微笑んですぐ机の方に目を移した。「彼も少し苦手なんだよなあ」と思いつつ久しぶりに黒板の内容を板書した。


 何事もなく4時限目まで終わり昼休みに入る。友達は部活の用事がどうたらでいない。自分はプロテインバーなどの行動食をさっさと食べて小説を読み始める。少し読み進めていた所で、

「その小説、水無月大安みなづきたいあんのひまわりだよね!」

 左耳がおかしくなるぐらい大きな声で言われた。左耳をおさえながら大声の張本人、青木蓮の事を見る。少し睨んでいたかもしれない。

「ごめん...自分もその小説好きだったからつい。」

「別に気にしてないから良いよ。」

 冷たくあしらいもう一度読み始めようとした。しかし、

「その小説さあ。自然の描写が凄く繊細でそれでいて内容は色んな伏線が張り巡らされてて読み応えがあるよね!特に花の描写は想像が簡単だし桃源郷に来たみたいな美しさがあるよね!」

 ここまで一人で喋っている感じ本当に好きなのか。初めて彼が自我を出してくれた様な気がした。彼はいつも先生やクラスメイトに愛想を振りまいて、嫌われないように必死になっている様にも感じていた。さっきだって愛想笑いだったんだろう。そんな彼が私には自我を見せた。多分、彼は私のことを愛想を振りまかなくてもいいと思ったんだ。それはきっと私には嫌われてもいいと思っての行動だと思う。私なんかに嫌われてもどうでもいいということ。


「ゼラニウムは月光に照らされその白い花弁を輝かせている。それは私自身を鏡に写し出した様であった。」


 彼にピッタリの一文を引用させてもらった。ちょっとした皮肉だ。

「それって永久花の一節でしょ!小野さんも小説いっぱい読むの?自分は風景の描写だったり心情の動きを写実的じゃなく、美しく表現する小説が大好きなんだ!」

「ふふっ」

皮肉を言ったつもりが彼の火に油を注いでしまったようだ。いつもの彼とは思えないほどのマシンガントークに思わず笑ってしまった。

「ごめんっ青木くんのそういう所初めて見たから。」

「お互いの好きな小説とか交換して読もうよ!あっ、これからは蓮でいいよ。」

「うんっ良いよ。私の事も小野さんじゃなくて下の名前で呼んでもいいよ青木くん。」

「分かったよ!小野さん!」

そこからしばらく小説の話で盛り上がって、私も久しぶりに自然に笑えていた気がする。

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