第6話 滅びた公爵家の謎

「聞いた話によれば、王太子殿下の側近候補として王宮に招いた貴族の子弟の親御さんたちにも王妃陛下がいちいち苦情を、その時に『ルルージュやメレディスのようになりたいか』とまで……」


「なっ!」


 我が父の指摘に王妃が絶句する。


 国王は知らなかったらしく驚いて王妃の顔を見る。


 ルルージュやメレディスとは滅びた公爵家の名前だ。


 かつて王国を滅ぼしかねないほどの魔物があらわれ、それを五人の英雄が封印に成功し、その時の手柄で公爵に叙せられた。


 その家系も今は我らがヴァイスハーフェンとパート1の悪役令嬢が出てくるブリステルだけ。


「ヴァイスハーフェン家の情報網をなめないでいただきたいですな。しかし、さすがにヴェルダートルの名を出すほどに、面の皮が厚いわけではなさそうですな」


 ヴェルダートルも滅びた公爵家の名。


 ただし、百年以上前に滅びた二家とは違い、ヴェルダートルが滅びたのは数十年ほど前の話だ。


「とにかく、ヴァイスハーフェン家の教育がお気に召さないのであれば婚約は解消していただいてかまいません。その話し合いでしたらいつでも応じますので」


 父が再び国王夫妻に厳しい言葉を投げかける。


「待て待て、なにもそのような……。王妃も息子の心配が過ぎたようじゃ!」


 なんとかその場を収めようとする国王陛下。


 王妃は言葉を失い、ドレスの裾を両の手で握りしめながらうつむいている。


 双方に誤解があったということでこの場はおさまった、と、いうか、無理やりおさめた、と、言った方が正しいだろう


「では、私どもはこれで」


 父がおいとまのあいさつをしたので、私もそれに倣う。


 そして、退出のため部屋の扉に向かって歩いていると、ジークが駆け寄ってきた。


「待って、サラ。ごめんね、なんだか変なことになってしまって」


「いえ、ジー、こほっ、……。王太子殿下のせいではないことはわかりましたし……」


「もう『ジーク』とは呼んでくれないの……?」


「やはり、その……」


 口ごもる私にすがるような目で見つめるジーク。


「他の子たちはいずれ家臣となる者だから、子供のころからちゃんとけじめをと言われたら何も言えなかった。でも、サラは僕の家臣になるわけじゃないよね」


 ジークは言った。


 考えてみればかわいそうだ。


 みんなと仲良くなりたかっただけなのに、『主従関係』とか『不敬』とかいう言葉で距離を置かれてしまって……。


 それをする必要のない私くらい、そんな縛りがない形で接しても良いのではないだろうか?


 でも、それを告げるには、父が上から見下ろしているし、離れたところには国王夫妻や家臣たち、ちょっとギャラリーが多すぎるのよね。


「国王夫妻やほかの人がいないところではできるだけそうするようにするね」


 私はジークに耳打ちした。


 ジークはそれで納得したらしく、笑顔で見送ってくれた。


 帰りの馬車の中では父と二人きり、気まずい沈黙が流れる。


 私は思い切って父に質問した。


「ヴェルダートルと国王夫妻の間には何があったのですか?」

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