赤月結衣

ある朝、リビングで本を読んでいた時、突然彼女がやってきた。まるで暇を持て余すかのように、いつも「好き」を言葉にしている。僕にとって「好き」という言葉の意味が理解できず、『暇なのか』と尋ねてしまう。彼女は「本当の事なのに」と言い目に涙を浮かばせていた。僕はそれが一番困るときだ。僕は彼女に涙を流せたいわけではない。むしろその逆で、普段から笑顔で満ち溢れている彼女の存在に魅了されていたのだ。「俺は好きという言葉は知らないが、君が言葉にするとなぜか心地がいい。でも、君が泣くのは困る。そうだな。普段のように無邪気に笑っている君を見ていればそれでいい。」僕はそう言い、彼女は顔を赤らめていた。

 あれから数日が立ち、彼女はある一枚の写真を見ていた。そこには彼女と家族と思われる人たちが映っていた。「そんなもの見て何になる」と言い、彼女は「人間は思い出に生かされている生き物だから写真に収めて忘れないようにするの」と言い、大事そうに持っていた。そこで彼女は何を思いついたのか「写真を撮ろう」と言いだした。写真を撮り終えた後、『人間の命はいつか消えてしまうから』と言い残した。「でも、写真の中では“永遠”に生き続けられるんだよ」

 数年後、僕はふと思い出したかのように、ある一枚の写真に目がいった。それは彼女と撮った最初で最後の写真。「ああ、こんなものあっても、お前の声はもう思い出せないじゃないか。」

             「声」

                 End

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赤月結衣 @akatuki-yui

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