第3話 第1章: 戦国の土、久留米にて
1.戦国時代の久留米への転生
紺野友和が目を覚ましたとき、彼を取り囲むのは見知らぬ木造の家屋と静かな森の音だけだった。彼の身体は若く、力強いものに生まれ変わっていたが、心の中に
不安と混乱が渦巻いていた。何とか立ち上がると、窓から外を覗くと、そこには広がる田畑と遠くに見える山々の連なりがあった。
突然、部屋の戸が開き、一人の中年の女性が入ってきた。彼女は驚きながらも優しく話しかけてきた。
「あら、ようやく目覚めたのね。心配したわよ。君はどこから来たの?どうしてこのように倒れていたのかしら?」
友和は彼女の言葉を理解できることに驚きながらも、自分がどう答えるべきか考え込んでしまった。思案の末、彼はなるべく無難な答えを選んだ。
「ええと、私は…記憶があまりないんです。ここはどこですか?」
「ここは三井郡大刀洗の本郷よ。戦国の世を生きるこの地で、あなたは私の家の前に突如として倒れていたのよ。私はこの村の者たちとあなたを家に運び入れたの。名前は何ていうの?」女性は心配そうに友和を見つめた。
「紺野友和と申します。」と友和は自己紹介をしながら、彼女に感謝の意を表した。
「私は澄江。この家で夫と二人で暮らしています。夫は今、村の外で作業をしているのよ。」澄江さんが言うには、彼女の夫は農業をしており、戦時中でもありながら、何とか日々を送っているという。
友和は自分が戦国時代に転生してしまったのかという事実に少しずつ慣れていき、澄江さんの案内で周囲を見て回ることにした。村の様子は質素でありながらも、人々は互いに助け合い、強い絆で結ばれているようだった。
「戦国時代というのは、まさに国や領地を巡る大名たちの争いが絶えない時代です。ここ三井郡も例外ではありません。時には外敵に備えて戦をすることもありますよ。」澄江さんが説明すると、友和はこの時代の厳しさを改めて感じた。
村の中で、友和は特に子供たちと仲良くなり、彼らからこの時代の生活や遊びについて学んだ。子供たちは友和のことを新しいお兄さんとしてすぐに受け入れ、彼もまた新しい生活に少しずつ馴染み始めていた。
一方で、友和は自分が持っていた現代の知識を活かして、村の人々の生活を少しでも楽にする方法を考え始めた。たとえば、水の引き方や食料
の保存方法など、少しの工夫で人々の日々の苦労を減らすことができるかもしれないと思ったのだ。
数週間が過ぎ、紺野友和は三井郡大刀洗本郷の村での生活に少しずつ慣れてきていた。彼は現代から持ち込んだ知識を活かし、村の人々の生活を改善するいくつかのプロジェクトを始めることに決めた。
友和はまず、村の水供給方法を改善することから始めた。戦国時代のこの地域では、水源から直接水を汲んで生活に利用していたが、運搬が大変で衛生的でもなかった。
「澄江さん、ここに竹を使った簡単な水路を作ると、水を効率よく運べるようになるかもしれません。」友和は村の人々に提案し、彼らの興味を引いた。
竹を割って中をくり抜き、それを連結して水路として用いるアイデアを実践に移した。これにより、水源から直接村の中心地に水を引くシステムを構築。労力を大幅に削減し、水の利用効率が向上した。
紺野友和は、三井郡の村に溶け込み始めて数週間が経過していた。この地の人々との交流を通じて、彼は戦国時代の生活に少しずつ慣れ、自分が持っていた現代の知識を活かす方法を模索していた。
ある日、友和は村の長老と話している中で、食料保存の技術について話題が上がった。長老は、特に冬場の食料不足に頭を悩ませており、何か良い方法がないかと友和に相談してきた。
「実は、私が以前生きていた時代には、シイタケ栽培というのがありました。それと、干しシイタケという非常に保存が利く食材も作れるんです。それから糠漬けという方法もありまして、これらをうまく使えば、冬の食料問題を少しは解消できるかもしれません。」
長老と他の村人たちは興味津々で友和の話を聞いた。翌日、友和は実際にシイタケの栽培方法を村人たちに教えることにした。
友和は、まず村の近くの森から適当な木を選び、その木の幹を切り出してきた。彼は村人たちに向かって説明を始めた。
「シイタケを育てるには、このような木の幹が必要です。そして、これにシイタケの菌を植え付けるんです。」
村人たちは興味深くその作業を見守り、友和は木の幹に小さな穴を開け、そこにシイタケの種菌を挿入していった。その後、木の幹を湿った場所に保管し、定期的に水を与えながら説明を続けた。
「こうして菌が木に根付くと、数ヶ月後にはシイタケが収穫できるようになります。」
シイタケの栽培方法を教えた後、友和は干しシイタケの作り方を説明した。収穫したシイタケを清潔な水で洗い、日の当たる風通しの良い場所で干す。干しシイタケはそのまま長期保存が可能で、料理にも使用できる。
さらに、彼は糠漬けの方法も伝授した。野菜を塩漬けにしてから、糠床に埋めるというシンプルな手順である。
「この糠床に野菜を埋めておくと、発酵して味が増し、長期保存が可能になります。冬場でも新鮮な味を楽しむことができるんですよ。」
現代の知識を活かして、友和は村の衛生状態の向上を目指した。特に、手洗いや食器の洗浄を徹底することで、病気の予防につながることを説明した。
「まず木材を燃焼させた後の灰を採取します。この灰が洗浄剤の主成分となります。」
「採取した灰を水に浸し、アルカリ成分を抽出します。この溶液が「灰汁」と呼ばれ、弱アルカリ性の洗浄効果を持っています。」
「灰汁を布や網で濾過し、不純物を取り除きます。清潔な灰汁は洗浄力が高まります。」
「濾過した灰汁を布や皮革の洗浄、または身体の洗浄に使用します。特に布の漂白や脱脂に効果的です。」
「手や食器は、食事前に必ず洗うようにしましょう。これだけでも、病気を防ぐことができるんです。」
初めは疑問に思う村人もいたが、友和の説明を聞き、徐々に実践する家が増えていった。これにより、村全体の健康が向上し、特に子供たちの健康状態に良い変化が見られた。
村人たちは、これらの新しい技術に目を輝かせながら、熱心に学んだ。友和の提案した方法が実際に役立つか試す日々が続いたが、彼の知識は確実に村の生活を豊かにしていった。
友和は自分の役割を見つけ、戦国の厳しい時代を生き抜くための一助となることを心から願いながら、毎日を過ごしていた。この小さな変化がやがて大きな影響をもたらすことを、まだ誰も知る由もなかった。
これらの変化は、友和が村の中で尊敬される存在になるきっかけとなり、彼の提案が村の未来を明るく照らす希望となった。友和自身も、自分が持っていた知識がこんなにも役立つとは思っていなかったが、これが彼と村人たちとの絆を深める大きな要因となったのである。
夜になると、友和は星空を眺めながら、自分の猫たちのことを思い出した。もし彼らもこの時代にいれば、どんな風に過ごしているだろうかと。そして、彼らがいつか自分のもとに現れることを心から願っていた。
この新しい生活は決して簡単ではないが、友和はこの時代で生きる意味を見つけ、一歩一歩前に進んでいく決心を固めていた。そして、彼は知らず知らずのうちに、戦国時代のこの地で重要な役割を果たすことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます