第18話 予選2回戦第3試合

 試合後、メイは静子の勝利を友人として讃えたわけだが乙女の秘密として涅槃処については触れなかった。

 だが静子の戦い方から華権の隠していた種を見破った様子の瑠音は流石のようだ。

 彼女たち3人の関係性を踏まえれば、異性への攻撃に特化した精神干渉魔法を使うというところまで聞き出すことは可能だったであろう。

 それでも聞く前に際したからこそ彼女は聞かなかった。


 翌日の第3試合。

 まずはメイと有田の全敗同士の戦いとなり、結果はメイの勝利。

 有田は1回戦の手応えで自信を持っていたテインが通用しなかったことに肩を落としている様子だった。

 次の2戦目には全勝の静子と1勝1負の友親がリングに入るわけだが、未だ静子を大きな脅威と思っていない様子の彼は、ここで勝利して次の試合で瑠音が負ければ本戦出場の芽が残っていると鼻息が荒い。


「よろしくね」

「こっちこそ。負けないぞ」


 試合前の挨拶にもその意気込みが滲んでいた。

 お互いに挨拶を終えて開始となったこの試合、先手を取ったのは勢い余った友親ではなく静子の方だった。

 相手の得意が火炎魔法による遠距離戦だと周知しているからこその先制攻撃なわけだが、昨日は接近戦を得手とする有田に勝利しているだけのこともあろう。


「ラメ・カトール!」


 だが自分の周囲に炎を立ち上らせて作った壁が静子の接近を阻んだ。

 火柱が上がる予兆を感じ取って飛び退いて静子は回避したが、続けざまに指先から火球を飛ばしてくる。

 一発威力は盾で容易に防げるモノだが問題は粘りつくような特性。

 一度触れれば肌に張り付いて試合終了まで消せそうにない。

 これは昨日の有田との試合でも決定打となったスリップダメージである。

 火傷にならないように調整された炎ではあるがそれ故に魔法力を削る厄介さ。

 魔法力そのものは秀でていない静子にとっては油断できない魔法と言えよう。


(予想通り単なる直射じゃ防がれちゃうか。だがこれならどうかな)


 魔法力を吸収するアプヴェーア・エガシで防いだ3発分の火球はカウンター魔法の燃料には物足りない。

 盾を維持したまま静子も熱線魔法で対抗するのだが片手間の下級魔法では友親にもたやすく避けられてしまった。

 それを見て即座に駆け寄る静子。

 彼女が接近して火力を補いたい意図など自称「パイロマスター」の名に恥じぬ読みで友親は後の先を取る。


「しゃあ! ラメ・アプヴェーア!」


 盾をやや下に向けながら構えることで足元からの攻撃にも対応する静子に対して、迎え撃つ友親も炎の盾を作って対抗する。

 友親の盾は火球と同じ「触れたら粘り付く炎」で出来ていて攻防一体。

 唯一の欠点は物理的な防御力は皆無なところだが、火中に栗を拾ってまで攻撃するギャンブラーは早々いない。

 魔法同士のシールドバッシュで静子を弾いて再び距離を取る友親は彼女のふらつきを逃さない。

 そのまま炎の盾を放り投げて大火球のように用いる。


「あつ!」


 それ自体は依然として展開中だった盾で吸い取る静子であるが問題は追撃の火球。

 友親の制御から盾の魔法が離れたことで次の魔法を使用可能になった彼はコストが軽いぶん手早く離れる火球の雨で静子を狙い撃った。

 ただでさえ弾き飛ばされてふらついたうえに巨大な炎を受け止めた直後。

 追撃への警戒が緩んだ隙を的確に突かれてしまった。


「よし!」


 あとはこのままジワジワと嬲れば昨日のように勝利をつかめる。

 そう思った友親に対して、追い込まれた静子は逆に冷静となる。

 身体を包み込む炎は確かに息苦しいが一撃で意識を刈り取られていないのは幸運だと。

 アオが相手ならば今の攻撃で確実に負けていたと。


「こっちこそ!」


 それに気づいてしまえば後は開き直りの勝利であろう。

 自前の魔法力はガリガリに削られているので頼りない。

 だが先程吸い取った炎の盾の魔法力があれば大きな一発はぶちかませる。

 大事なのはチャンスでは確実に決めることだと昔教えてくれたのはどちらの姉だったか。

 そんな事を考えながら痛みを我慢して近づいた静子は追撃の火球をものともしない。


「ラメ! ラメミ! ラメマーゾ!」


 友親の放った下級、中級、上級のトリプルビーフケーキを左腕を盾にした静子は痛みに堪えている。

 骨折したかと思うほどの痛覚だが一瞬のこと。

 出来れば受けたくないが、わかっていれば我慢できるのは頑丈さ故か。


「なんで倒れないんだ?」


 友親がそう思うのも無理はない。

 怯んで隙だらけになった彼の胸にゼロ距離の中級熱線魔法──ラギマベを放った静子はノックアウトで無傷の3連勝を掴み取った。


 決着後、ぶり返した痛みを法術の治療で抑えた静子も見守る中で行われたのは、この日のラストである瑠音と華権の試合。

 あいも変わらずに涅槃処による女性殺しを目論む華権ではあったが、既に種が割れた魔法など学年筆頭には通用する気配はない。


「下劣な魔法で紳士さを捨ててまで勝とうという姿勢は評価いたしますが……わたくしに使うつもりならば遅すぎますわよ」


 呟いた通り、瑠音は発動の気配を察知しての最速防御で涅槃処封じてしまった。

 静子のように2つの魔法を同時に運用する二段撃ちとは異なる最適な切り替え運用によるパリィ。

 それだけの芸当を不可視の魔法に対して行える瑠音の戦技が涅槃処の発動インターバルを埋めるための手段に劣る道理などない。


「あぐあ」


 魔法力を込めた殴打のために杖を振りかぶった華権の間合いに軽々と入り込んだ瑠音は盾を展開する間も与えぬまま顎下からのアッパーで勝利をおさめてしまった。

 魔法拳によるそれは華権の長身を軽々と上空に打ち上げて、錐揉み落下で頭から落としてしまう。

 そのまま本来ならば自分がされているべきお姫様抱っこで瑠音が受け止めなければあわや大惨事。

 それとも審判が魔法で受け止めるTKOのいずれかであろう。

 圧倒的な勝利を前に明日の試合でも瑠音が勝利をおさめて順当に決勝トーナメントに進むのであろうとクラスの皆は彼女を見る。

 同じ全勝とは言えボロボロの勝利が続く静子自身でさえそう思うほどに瑠音の立ち振舞は優雅だった。

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